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第43話 C-02 西名×琉加 ⑭

 「おはようございます!」  「おはようございます」  いつもと変わらない赤阪院の朝の準備の中、スタッフ達に挨拶する。重役出勤なんてしない。ほぼスタッフと同じ時刻に出勤する。だけど最近色々考える事が多くて寝付きが悪いせいか早起きが辛い。あくびを手で隠しながら奥へ進んだ。  「ねぇねぇ、ちょっと西名くん」  「川窪、、どうしたの?」 後ろから追いかけて走ってくる彼女に院長室に入る手前で止められた。  「昨日大丈夫だった?なんか銀座院で患者とのトラブルあったのとか!?」  「あー…まぁね。どうして知ってんの、、?」  「狭い世界だもん。噂なんかすぐ広まるよ、看護師の情報通を甘く見ないで!」  ふっと笑って一歩近づいた彼女はヒソヒソと小声で話す。  「あと今日仕事終わったら時間ある?」  「あーごめん……今日はちょっと用事があって、、」  結局、昨夜彼に電話して今夜また会う約束をした。特に何をするって訳じゃないけどこの7日間は少しでもチャンスを見つけて会って話をすることが大事と思ったから。  「そっか。それなら大丈夫!あっ、今日一件目の手術の患者さんですが、15分くらい到着遅れるそうです。手術の準備は終わってます」  突然仕事モードに切り替わった彼女は真面目な顔で言った。すっかりこの病院にも慣れてきた彼女は頼れて仕事も出来ると同僚からの信頼も厚い。  「うん、わかりました」  「じゃよろしくお願いします」  そう言って戻って行った。まだ正直イマイチ掴めない部分がある彼女だけど、いつも明るくてすでにムードメーカーになっていて中学の時からは想像出来ないくらいだ。  午前二件の手術をして午後は新しい患者のカウセリングや担当患者の経過観察で昼食とる時間も無かった。気付けば外も薄暗くなり、もうそんな時間かと数時間ぶりにスマホを見るとメッセージが三件。 "おはようございます"  "今日お買い物付き合って欲しいです"  "授業早く終わらないかな〜"  "美味しいものも食べましょう"  まるで恋人に送るような文章が時間の間隔をあけていくつか届いていた。きっと授業中にメッセージを送りながら僕の返信を待っていたんだろう。 あまり恋愛には関心がなく駆け引き下手な僕は過去の彼女にもこんなメッセージは送ったりはしない。誰かに依存するなんて恥ずかしくてカッコ悪いと思っていたから。  "わかった。いいよ、待ってるね。ではまた後で"  自分から誘っておきながら簡単に返信を済ませるとすぐに既読になった。彼のお気に入りだろうかよく見る猫スタンプが届いてスマホを閉じた。    今日一日の患者のカルテを入力し終わると時計を見た。  「そろそろ向かうか」 上のシャツだけ着替えて鏡に向かい襟を正す。いわゆるデートってこんな気分だっけ?部屋を出て受付にいる看護師に挨拶をする。  「今日はもう帰るので何かあれば他の先生にお願いします」  「わかりました。お疲れ様でした」  自動ドアが開いて出て行くと同時にオペ室から看護師が数人出てきた。    「手術室の片付け終わりました。あれ?院長は今日ももう帰宅ですか?」  「あっ川窪さんありがとう。、、あっうん。何か予定があるみたいで。何かあった?」  「あっ、新しい薬剤を他の先生から預かったので渡そうかと……」  「それなら院長室に置いて置けば明日、確認してくれると思う」  「わかりました」  手に持っていた新しい薬剤が入った箱を抱えながら院長室に入った。デスクの上は物がたくさんあって箱を置くため、資料が挟んだファイルをずらした。 "あっ!"と声と同時にファイルを床に落とし中から飛び出した紙が足下に散らばった。  「あー、やっちゃった……」 一枚ずつ丁寧に拾い集めながら"んっ?"と一枚の紙が目についた。当然よく目にする患者のカルテだとすぐわかったが、これだけファイルにしまってあって余白に何やらペンで殴り書きがされていた。  「……ルカ、両親3人暮らし、教員目指す、整形依存症、11月15日、デスペラード……何だろ?」  書いてる文字をそのまま読んでみるがさっぱりわからなかった。とにかく細い情報が記してあった。通常は患者のカルテや個人情報リストは病院内のパソコンでしか見ることは出来ず、印刷する事も禁止されている。個人情報の管理はこの業界にとってはもっとも大事な業務と言っても過言ではない。  集めた資料をファイルに戻して元の位置へ戻す。色々と気に掛かったがそのまま院長室を出た。

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