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第44話 C-02 西名×琉加 ⑮

 「んっ、なんかいい香り……」 ベッド脇の間接照明に照らされて少し眩しい目をゆっくり明けながら言った。  『あっ典登、起きた?』  「うん、、今何時?」  『夜の7時過ぎ、食欲あるなら何か食べるか?』  横を向くとベッドに腰をかけて本をパタンと閉じた心配そうな紘巳の姿があった。薬が効いてだいぶ眠ってた典登は少しぼんやりしている。  『じゃ一緒にご飯たべようか?』  「うん。お店も明日から出れそうかも。あっ、それより店はいま爽ひとりで大丈夫なの?」  『あぁ。今日はお客さん少ないから早く帰ってきた。爽も何だか最近やる気がすごくて、店は任せて下さい!だってさ。何かいい事あったんだろうけど聞いても言わなくて。それにー…」  風邪を引いた典登と数日間、別の部屋で過ごしていた二人。もぞもぞと布団に潜り込んで典登の肩に顎をのせた。珍しく甘えた紘巳の行動に愛らしく思ったが、腑に落ちない点があり意地悪く顔を背ける。  『ねぇ、この数日別々で寝てたしキスすらしてない。俺もう我慢出来ないんだけど』    顔を上げ肩から首筋を伝って唇を合わせようとした瞬間人差し指で動きを止められた紘巳。典登の顔を"何で?"とおねだりモードで訴える。    「それはそうとー…このサンダルウッドの香りは何かな?」  『ん?何のこと?』  「あっそう。知らないふりするんだ?」  一種の催淫作用を引き起こすと言われるサンダルウッドオイルは性的興奮を高めてくれる作用がある。目が覚めた時に一番に香ってきた正体はこれだ。もちろん香りも効能も周知している典登は紘巳の企みにクスッと笑った。  『えっと……典登の嗅覚が戻ってきたか試そうかなって、、って何でそんな目で見るんだ?』  「本当にそれだけ?」  『それ以外に何がある?』  負けじといい返す紘巳だが完全に負け試合。いつだって強気な紘巳が唯一勝てない相手で、唯一の弱点だ。  「本当の事言わないとこの先はないけど?」  『えーっと』  「ねぇ、もしかして紘巳だけが我慢してたと思ってる?」  指を離して5本の指を紘巳の長い髪にすーっと何度も手櫛を通して焦ったく妖艶な眼差しを向ける。  『じゃあ、、OK?』  「うん。看病してくれたお礼いっぱいさせて」  そう言って唇を合わせた。数日間感じなかったお互いの温さを確認するように舌を絡めた。無我夢中と言う言葉がピッタリなベッドの上の二人にはもはやオイルの香りは関係なかった。 ◆◇◆◇◆  「先生こっちです」  「あー広くて迷ったよ、ごめん」  いわゆるショッピングモールと呼ばれる施設。子どもの頃から家族揃って買い物行くなんて事は滅多になかったからなんだか新鮮。 しかも病院の患者と二人で来るなんてそれこそ思っても見なかった。  「来週が母親の誕生日だからプレゼント買いたいんです。なんかー…付き合わせてすいません」  「いやいいよ、こうゆう場所来る事もなかなかないし」  「先生って普段どこで買い物するんですか?」  「んー、、あまり物欲がないから物買わないんだよね。スーパー行くくらい」  「へぇそうなんですね。じゃ今日は僕に付いて来て下さい!」  「うん、任せるよ」  並んで歩き出すと左右にぎっしりお店が並んでいて彼はあれやこれや目移りして忙しそう。  「服か…いやバッグ……あぁ!どうしよう」  「あれ?買う物決めてないの?」  「あー…サプライズであげたかったから母親には聞いてなくて、、お店来たら何か見つかるかなって」  「まぁこれだけあれば迷うよね。時間あるしゆっくり見ていこう」    コスメやアクセサリーや雑貨店。一店一店じっくりと品物を手に取ってプレゼントを探す。そこには患者と医者のような固い隔たりなんてどこにもなく、よくあるデートとは単純にこうゆう事を言うのだろう。  「あっ、あれすごくカッコいい」  彼が言うその先にはウィンドウ越しに立つマネキンが上下セットアップのジャケットとパンツを着ていた。その店はモダンシックでお洒落なアパレル店で人気のブランドだった。マネキンの前で目を輝かせている彼の隣に立って足を止める。  「本当だ。ちょっと中入ってみる?」  「でも、、この店高いですよね。買った事はないけど知ってます」  「別に見るだけならタダだよ」  「いらっしゃいませ。良ければ中で試着も可能ですよ」  「あっいえ大丈……あ、、」  出てきた店員の顔を見てピタッっと止まりバツが悪そうな表情の彼を見逃さなかった。すぐ顔を逸らした彼とは真逆に顔じっと見つめる店員。  「あれ?もしかして大槻!?」  

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