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第45話 C-02 西名×琉加 ⑯
突然砕けた口調になった店員から親密さ伺えるが彼の様子を見るとそうではなさそうだ。
「大槻だよね?久しぶり、何してんの?」
「あっ、、いやちょっと買い物に……」
彼知り合いだと思われる店員はパッとこちらに顔を向けた。なんとなく反射的に軽い会釈をした。
「でもなんか印象変わったっていうか一瞬違う人かと」
「中学卒業以来かな、、?ここで働いてるんだ?」
「高校卒業してすぐこの店に就職したんだよ」
「へぇ、、こんなお洒落なお店にスゴいね」
「大槻は?いま何してんの?」
相手の顔を見ないで話す彼はどこか居心地悪そうにむしろここに来た事を後悔してるようにも見える。わかった事は中学の同級生で卒業以来の再会、だが決して嬉しい再会ではないという事。
「僕は大学で教員になる勉強を、、」
そうだ、彼は中学時代は不登校気味で友達もいなかったと言っていた。原因は容姿を揶揄われた事、それは後に美容整形という選択肢をあたえることになった出来事だと。
「へぇ、学校にあまり来なかった大槻が先生にねぇー」
「……うん」
「それで今日は服買うの?いいけどウチの店そこそこの値段するけど大丈夫?」
何だか時々出る発言が気に触って笑っていられなくなってきた。しばらく久々の再会を楽しませてあげようと黙って聞いていたけど限界に達していた。
「別に買おうって言うか、、ちょっと見てただけで……じゃそろそろ行くから」
「残念だな〜もっと思い出話したかったのに〜」
その場から去ろうとした彼の手を掴んだ。彼は少し潤んように見える瞳を大きく開いて僕を見る。
「待って。僕は買いたい服あるから中入って見てもいい?」
「えっ、、でも」
「あの悪いけどこのウィンドウの服着せてもらってもいいかな?」
「これですか?まぁはい、、それは大丈夫ですけど」
「じゃお願い出来る?」
同級生の店長はマネキンからセットアップ上下の服を外して試着室に案内する。
「ここで靴を脱いで上がって下さい」
「じゃ琉加くんどうぞ」
「えっ、僕ですか?先生じゃ、、?」
「うんそうだよ。さっ、入って来てみて」
彼は服を受け取ると試着室に入って着替え始めた。その間、同級生の店員は黙って近くのTシャツを畳んだり入店する客に挨拶をしていた。
「彼、中学の時と何か変わったと思いますか?」
「えっ?ああそうですね……顔も少し変わった気がするけどまず笑った顔は見た事なかったので、さっきウィンドウにいた時初めてみました。まぁそこまで仲よかったわけじゃないので忘れてましたけど」
「誰かにとっては忘れるような出来事でも違う誰かにとってはずっと消えない記憶になる事を覚えていた方がいいよ。いい意味でも悪い意味でも」
「、、どうゆう意味……?」
するとゆっくりカーテンが開いてさっきまでウィンドウで多くの目人に見られていた服を今は彼が身にまとっている。恥ずかしそうに髪の毛を触って僕の方を見ている。
「うん!すごく似合ってる」
「そうですかね、、」
「うんだって琉加くんはすごくカッコいいから。ほら良く見て!」
僕は彼の肩を両手をおいて後ろにくるっと回すと全身鏡に二人が写って鏡越しで目を合わせた。
「ほらこれが今の琉加くんだよ。昔の琉加くんじゃないよ。変われたんだよ」
耳元で彼にそう言った。手術しても"変われた"と受け入れるまでの時間は一人一人全く違う。
だけど彼の目は初めて来院してから今までの見た中で一番満たされた顔をしていたんだ。
「お会計が合計12万9800円です」
「カードで」
結局自分のシャツやら小物も買って合計は10万超え。大した金額ではない、とりあえず彼に喜んで欲しいの一心だったから値段なんて見てなかったし。
そのままお店を出た僕達を見送っていた同級生の彼はどんな気持ちだったのか。
「あーお腹空いた!実は今日忙しくてお昼も食べてないんだ。とりあえずご飯にしない?お母さんのプレゼントはその後で」
「はい、いいですけど」
自分でもあんな行動を取ったのは正直驚いた。なるべく争いを避けてきた人生。厄介事になる前にうまく立ち回って火事になる前に水を撒く、そんな人生を望んでいたのに少しずつそのレールから外れてきているような気がするのは気のせいか。
ショッピングモールのレストランゾーンには和食から中華から洋食までなんでもあった。ちょうど御飯時と言うのもあってどのお店もお客さんはいた。
「食べたいものある?」
「任せますよ」
「それじゃー…あっここなんかどう?しゃぶしゃぶ」
「いいですね、ここにしましょう」
店員に案内された窓際の4人掛けテーブル席に向かいあって座る。隣の空いた椅子に購入した服が入ってある質の良い大きなショッパーを置いてメニューを開いた。
「何でも食べたいもの頼んでね」
「はい!うーん……何にしようかなーいっぱいあって迷いますね」
彼は待ち合わせした時のテンションに戻っていてホッとした。それともワザと明るく振る舞ってるのかわからない。
余計なお節介だったかもしれない、、やっと冷静になれた今改めて思ったが彼のトラウマを克服するには逃げてばかりではダメな事も知っている。
「はい、これ琉加くんのね」
「……本当にいいんですか?なんか悪いですこんな高価なもの」
大きなショッパーを手渡すと彼は遠慮がちに受けとって"ありがとうございます"と小さく言った。
注文した料理が運ばれてテーブルの鍋も準備万端のいい香りがして二人で空きっ腹に入れていく。もちろんそれ以降、学生時代の話をする事はなかった。
「そうだ、何かお礼したいです、洋服の。して欲しい事はありますか?けど金はないから物は無理だけどー…それ以外なら何でも言って下さい」
「そんなお礼なんていいよ、じゃ卒業祝いって事で」
「祝いって早いですよ。しかも高すぎます。やっぱりダメです、、それじゃ気がすみません」
僕は鍋から箸を出してお皿に置いた。もしかして今なら言えるかも……とグツグツと湯気を出す鍋から彼に視線を変えた。
「それじゃー…一つお願いがあるんだけど」
「はい、何ですか?」
「……今度の手術は諦めてくれない?」
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