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第46話 C-02 西名×琉加 ⑰
「……えっ?」
あまりにも予想だにしてなかった台詞だったのだろう。彼の顔は悲しみでも怒りでもない顔で呆然と僕をみている。
「でも前に手術を受けてもいいって、、」
「コンプレックスがあるなら整形以外の方法で直して行けばいい」
「何で、、急にそんな事言うんですか?」
「僕はもう琉加くんに手術をして欲しくないんだよ!」
これは美容外科医として言うべき発言ではないのはわかってる。もうここいる自分はただの一人の男として彼への思いを述べているだけの身勝手な奴だ。
彼のお箸を握る手が強くそして微かに震えていた。じわっと瞳を濡らしたまま箸をコトンと置いた彼は小さな声で言った。
「……わかりました」
そして彼は勢いよく席を立つと鞄を持ってそのまま店を出て行ってしまった。バタンッと音をたてて倒れた椅子からは紙袋から飛び出した服。
"あっ!"とそこまでは声が出たのにそれ以上の言葉も追いかける事も出来なかった。
怒りかそれとも悲しみなのか彼の行動をどう捉えればいいのかわからない。今の彼ならもう整形に頼らなくても前を向いて進んでいけると思ったのに。
周りの客も"何だ?何だ?"と食べる手を止めてチラチラと視線を感じながら服を戻した。
その後、彼に何度も電話をかけたが繋がる事はなくメッセージも既読にならなかった。傷つけてしまった事を今更気付いてももう遅い。かといって謝れば手術を受け入れる事になる。
オイルの効果で僕を好きになっても考えまでは変えられなかったのか、、もしかしてこの作戦は失敗だったのかもしれない。もう彼は今後僕に会おうとしないかもしれない、、と考えれば考える程マイナスな思考になってしまう。
負のスパイラルから抜け出せずそのままぽつんと一人取り残されたテーブルで、食欲なんて完全に消え失せて手荷物いっぱい抱え店を出た。
そしてそほぼ一睡も出来ないまま翌朝を迎え出勤した。まだ暗い院内は看護師もいない、家にいても落ち着かないしいつもより二時間も早く来てしまった。
院長室に入って机に袋に入った薬剤に気づいた。早く来たのは別に仕事の意欲があるわけじゃないが、来たら来たで仕事は山積み。結局しばらく椅子にもたれかかって座りボーっと天井を見ているだけだった。
しばらくしてガタッと音がして誰かが出勤したのに気づいて身体を起こす。
「あれ?院長おはようございます。今日は早いですね」
「あっうん、、やらなきゃいけない事あって」
「そうなんですね。あっ、それから川窪さんが体調不良でお休みすると連絡がありました」
「わかりました……」
ふとスマホを見ると彼へのメッセージ全て既読に変わっていた。ただ返信はなくむしろ無視されている事が確定して更に落ち込む。
それでも次々と患者は来院していつもと同じ笑顔で丁寧に診察していく。今日に限ってオペの予定がなかっただけ幸いだったのかもしれない。
今日は誰よりも早く来て一番最後に院を出た。何だか一日ポッカリ空いた何かを仕事に打ち込む事で埋めようとしていた、だけど何も変わる事なかった。朝と同じまた家に帰るだけ。准のバーにでも行って朝まで付き合ってもらうか、、なんて考えながら駐車場に来て鞄の中のキー探した。
「ん……?、、、琉加くん!?何でここに?」
車の横に人影が見えてゆっくり近づくとそこに立っていたのは彼だった。暗い中ちょうどライトの下にいた彼は初めて院を訪れた一年前の顔つきと行動が同じに思えた。
「、、先生に会いたくて来たけど……中に入る勇気がないし拒まれたらどうしようって」
「……そんな拒むなんてしな、、ッん!」
話し途中で彼に突然強く抱きしめられて息を飲み込む。一瞬何か起きたのかわからなかった。彼は顔を僕の首に埋めて両手で身体をしっかり掴んでる。
「先生、、僕を捨てないで下さい」
冷たい身体が長時間待っていたのを物語っていて僕も強く抱きしめ返す。捨てるなんて言葉どうして出てきたのか、そんな事出来るわけない。
"頭の中は琉加くん、君でいっぱいなのに"
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