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第48話 C-02 西名×琉加 ⑲
「本当に送って行かなくて大丈夫?」
玄関で靴を履いている彼に後ろから声をかけた。夜が明けた朝6時半、やっと空が明るくなった頃。
教育実習直近の彼も準備があるし僕も手術がぎっしり詰まってい今日はお互いゆっくりしていられない朝だ。
「はい。先生も今日は忙しいみたいだし準備してお仕事行って下さい」
「仕事終わって疲れてなかったら、、電話して下さいね」
「ふふっ。疲れててもするよ」
彼はあの店で買った服の紙袋を大事そうに抱えいる。シワシワになった紙袋を見てこの二日間で色々あったなっとを遠い目をした。
「あのー先生、昨日は本当に幸せな夜でした」
『そんな事改めて言われると恥ずかしいよ』
お互いまだぎこちない態度だけど通った心に緩む顔は隠せない。"それじゃまた"と出て行った彼に手を振ってまた一人の部屋に戻る。乱れたベッドの毛布を直しながら昨夜の身体に染み込んだ感覚を思い出していた。
久しぶりに朝食を食べてみようとパンと目玉焼きとコーヒーなんてザ定番を何故かやってみたくなった。明日からいつもより30分早く起きてこんな時間を作ってみようと。
仕事だけの人生だった僕がこんな事考えるようになったのはきっと恋をしているからだろう、、一人でいるより二人でいたいと思えたのは31年間生きてきて初めて抱いた感情だったかもしれない。
そしてオイルの期限はあと2日と数時間。
◆◇◆◇◆
「おはようございます、、」
「あっ川窪、昨日体調悪かったみたいだけど大丈夫??」
「うん。急に休みもらっちゃてごめんね」
「無理しないで大丈夫だから何かあれば言って」
少し遅れて出勤した彼女はまだ何となくいつもの覇気がなくまだ本調子ではなく見えて優しく声をかけた。
そんな彼女とは裏腹に悩みが解決した僕の心が軽くて仕事にも制が出る。
「それじゃ院長、患者さん呼びます」
準備が完了したオペ室に患者を通す。始めて二重手術を受ける大学生の女の子は緊張と不安で小さく震えている。
簡単な手術とは言え初めはみんなそうだ。コンプレックスを抱えて新しい自分に出会うその時を信じてこの場所へ来る。
「大丈夫だから未来だけ見て」
「……はい。よろしくお願いします」
鏡に映った顔に別れをするように台に上がった彼女は目を瞑った。
「それでは始めます」
美容外科医になって何度目の手術だろうか。同じ事を繰り返していると"慣れ"というものに、感情が消されていく。だけど彼に会ってそれではいけないと思わせてくれた。患者が医師に救われるなら、医師が患者に救われる事もあるんだ。
そして閉院時間まで詰まった手術スケジュールをすべて終えた。カルテを記入していると同世代の医師が隣で作業しながら雑談程度に話始める。
「そうだ院長、明日は学会でしたよね?」
「うんそうだよ」
「学会ってぶっちゃけどうなんですか?なかなか凄腕ドクターが揃ういわば美容外科医師会のオールスターみたいなもんですよね」
「えーまぁ確かにベテランドクターは集まるけどさ……あまり大きな声で言えないけど、ただの自慢大会だよ。僕はああゆうの苦手だから気が乗らないけどね、家族で強制参加決まってるから」
「そうなんですね。まぁそれが開業医師家庭の規律みたいなもんですよね。だけど俺からしたら羨ましいですよ」
自分の置かれてる環境は恵まれてるのかそんな事考えた事もなかったな。
そのまましばらく話こんで病院を出るのは夜10時を過ぎていた。
「もしもし先生、お仕事お疲れ様でした」
「琉加くんこそ学校お疲れ様」
帰りの車の中でスピーカーにして彼と電話する。学校の話や今日の手術の話、交互に一日の出来事を話すたわいも無い会話だ。だけどいつも流す大好きな音楽よりも彼の声は癒して疲れを取ってくれる。
「あっ、明日って時間あります?」
「明日?明日はー…うん、少し時間遅くなるかもだけど大丈夫」
「よかった!ほらっ母親の誕生日プレゼントこの間買いそびれれちゃったから。まぁ、、自分のせいなんですけどね……良ければ一緒に選んで下さい」
「うんわかった。それじゃ予定終わったら連絡するよ」
「はい。楽しみにしてます!それから、、先生大好きです!おやすみなさい!」
そう言って電話が切れた。"引き篭もりで満足に学校生活を謳歌していなかった少年がやっと殻から出てきて新しい人生を歩み愛を知って全てが変わっていく"と……彼の物語を書くとしたらきっとこんなストーリーになるだろう。
そして僕はそのストーリーの何処かで重要なキャストになっていればこんなに嬉しい事はない。
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