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ある日の夜

俺だってさ、たまには甘えたりとかさ、してみたいなとか、思ったり、思わなかったりすんだよ…クソが! なんて事ない、なんの異常もない、ふっつーの日常。 晩御飯を食べ終わって、今日は俺が作ったからハジメが皿洗いをしていて、なんか、ふと、ちょっかいをかけたくなった。 ソファにだらりと寝そべっていた体勢から、キッチンの方を覗いて、少しだけあるカウンターの隙間から見えるハジメの頭をロックオンする。 だいぶ髪が伸びてきてモサモサしてるな、なんて思いながら忍び足で近付いて、気付いているのかいないのか、こちらを見ないハジメの腰に抱きついた。 「なに」 予想していたよりもぶっきらぼうな反応にムッとしながらも、おでこを背中に押し付けて擦る。 「なんも無いけど」 本当に、なんも無い。ただちょっと触れたくなった、それだけ。 腕に力を込めて、深くハジメの匂いを吸い込んで、吐いて、そうしたら、くすぐったかったのか少し動く身体。 「あの…邪魔だよ」 「…………」 言いにくそうに、でもハッキリとした拒絶の言葉。 聞いた瞬間に何故か目頭が熱くなって、速攻で手を離した。 なんて言えば良いのか、何が正解なのか分からなくてそのまま無言で離れて、どうしたら良いか分からなくて、そのまま寝室へ向かった。 じゃま…じゃま……邪魔? じわじわと先程の言葉が染みてきて、だんだんと熱くなる目頭、鼻の奥。 あ?なんでこんなダメージ負ってんだ?そもそも邪魔ってなんだよ、邪魔じゃねぇだろ。 感情はイライラ、なのに滲む視界。 悔しくて、情けなくて、恥ずかしくて、 悲しかった。 「はー」 ボスン、とベッドに沈み込み、布団をかき集めて顔を埋める。 何を期待していたのか。 何がしたかったのか。 ……ただ触れたくて、多分触れたことで喜んでほしかった。 だって俺から触りに行くのは少ないから。 言葉で煽って誘う事はあっても、直接触るのはなんか違う。ハズい、柄じゃない。 しかもただ触るだけじゃない、抱きついた。 後ろからだけど、ちょっと、勇気、出したのに。 「クソ」 女々しい、分かってる、こんなんでくよくよすんな。 でも、ハジメなら、受け入れてくれるような気がしてた。 そうだ、ハジメもハジメだ、邪魔ってなんだよ。 両手掴んだ訳でもなく、通せんぼした訳でもない。 邪魔って、恋人に言うことかぁ…? イライラとシクシクを行ったり来たりして、そんな自分に嫌気がさして、もうこれは寝るしかないと思った。 最近寝不足だったんだ、今朝も10時まで寝てたけど、寝不足だ、うん。 だからこんな感情が揺れるし、抱きついたりするんだ、そうそう、気の迷い、寝不足。 寝るからにはシャワーを浴びよう、そう決めて、飛び起きて、寝室のドアを開けて、 「うわあああッ!?」 目の前に、ハジメがいた。 「は!?何してんだよそこで!あーびっくりした!!」 今来たのではなく、いつからかそこに立っていた様子で、驚いた勢いそのままに問えばゆらゆら彷徨う視線。 それは何か言いたいことがある時のハジメの癖で、じっと待っていると両手を握られた。 「あん?」 何がしたいのか分からない、そもそも俺はさっきコイツに邪魔だと言われて傷心していた。 だんだんぶり返してきたイライラを何とか宥めていると、掴まれた腕がハジメの腰に回される。 引かれた事で距離が近付いて、彷徨っていた視線と絡み合った。 「たぶん」 「……」 「君が……思ってるより」 「……」 「俺は、触られるのに……弱い」 「……」 言葉を探しながら、少しづつ告げられたことを咀嚼して、赤くなっていくハジメの顔を眺めて、ふと、視線を落として、 「は…おまえ、勃って……」 信じられない気持ちで顔を上げれば、すっかり興奮に染まった顔が近付いてきて口に噛み付かれた。 「ごめん……泣かないで」 キスの合間にぽつぽつ落ちてくる言葉。 咄嗟に閉じていた目を開いて、顎に噛み付いて、びっくりして体を引くハジメの目を見て、叫んだ。 「泣いてねーよ!バカ!」 言葉が足りない攻めと、素直になれない受け。

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