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第5話

 翌日の午後。  予定よりすこし早くスタジオに向かった透は、最寄り駅の外に出たところで騒がしい声を耳にした。 「なぁ、お姉ちゃん聞いてんの? シカトしないでよ」  ホスト風の見た目をしたチャラい男が、バス停のベンチに座った女性に話しかけている。  女性はといえば、ヘッドフォンをつけた上にうつむいていて、完全に男の存在を無視している様子だ。  どうせバス待ちするんだし、ちょっと声かけてみるか。  そんな風に思いながら近付いていくと、どうも見たことのある人物のように思えてきた。もちろん、チャラ男ではなく女性の方である。 「あれ、藤原くん?」  声をかけても気付かないので、とりあえずチャラ男に向き直る。 「この人、俺のツレなんだけど」 「はぁ? 急に現れてなに言っちゃってんの」  透に気付いたらしい聖が、顔を上げた。きょとんとして二人の様子を見比べている。 「なんか勘違いしてるようだけどさ。彼、こう見えて男だから」 「!?」  絶句したチャラ男は、聖の顔をまじまじと見つめた。 「おっ、覚えてろコノヤロー!!」  真っ赤な顔をして去っていくチャラ男の背中を見送りながら、透はちいさく息を吐く。 「なんつーテンプレな捨て台詞……絶対一瞬で忘れるし」  聖の方に目をやると、全く動じる様子もなく携帯をいじっていた。かと思えば、不意にその画面を透に向ける。  ありがとう  表示された文字に、思わず口元が緩んだ。 「いや、どうせ知らない人だったとしても声はかけてたし。まだしばらく待たなきゃいけないのに、ウルサイからさ」  すこし照れながらそう言うと、聖はにっこりと笑う。  あー、やっぱ可愛いわ……。そりゃチャラ男も間違えるわな。  自分が迷惑を被ったはずの見知らぬ男に同情しながら、透は改めて聖の姿を眺めた。  今日も赤いスタジャンに白無地のシャツというカジュアルな服装だ。これでも女性と間違われてしまうというのだから恐ろしい。 「でも、早かったね。次のバスに乗るとしたら、まだ集合時間まで三十分くらいあるよ」  じっと目をみつめられ、ドギマギしながら次の言葉を探す。 「えー、っと……今日行くスタジオは、メンバーの大学の先輩が店長で。その人もバンドやってるんだけど……」  透はついどうでもいい情報を延々と語り続けてしまい、聖が退屈じゃないかと心配になった。  しかし、大きな瞳で自分を見上げながら真剣に聞いている様子なのがあまりにも可愛らしくて、結局バスが来るまで喋り倒したのだった。

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