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第7話

 やたらと聖に絡みたがる秋都を牽制しつつ、一行はようやく目的地である建物に着いた。  透たちが通っている練習スタジオは、五階建ての大型スーパー内にある。テナントの楽器店と併設されているからだ。  よって、通う際には普通にスーパーの出入口を利用する。  異様に顔面偏差値の高い一団が入っていくので、他の買い物客からは完全に注目の的だった。 「まだ早いから、フードコートでお茶しようよ」  秋都の提案により、三人は地下に降りる。 「あれ、爺がいるじゃん」  席を探してキョロキョロしていた秋都の声に、蕎麦をすすっていた人物が顔を上げた。 「おぉ、二人とも早いな!」 「根岸(ねぎし)くんこそ、仕事は?」 「今日は半休」  爺こと爽汰(そうた)は、残っていた蕎麦を食べ終えると透たちの席に移動した。  聖のことを簡単に紹介している間に、秋都が全員分の飲み物を買ってきてくれる。 「俺はベース担当の根岸爽汰。メンバー唯一の会社員なのが自慢かな」  爽汰は微妙にピントの外れた自己紹介をした。 「だから根岸くんはバンドに本腰入れろって……結局、フリーターは俺と(かける)だけか」  タピオカミルクティーを飲みながら、透がつぶやく。  ヴォーカルの東堂(とうどう)翔は、ダンスインストラクターのバイトをしている。チラッと聞いた限りでは結構稼げるらしい。  透自身はローディーと短期のアルバイトをしてなんとか食い繋いでいるが、バンド活動を優先した結果だから仕方がないと考えていた。    隣に目をやると、聖は買ってきてもらったバナナシェイクをちびちび飲んでいる。  その正面に座った爽汰は、聖の姿を真剣な顔で見つめていた。  しばらくそうした後、透を見てニヤリと笑う。 「西村がすっげー推してくる理由がわかったよ」  その言葉に、透はなぜか動揺してしまう。 「藤原くんはビジュアルだけじゃなくて、音もヤバイんだって」  つい妙なフォローをしてしまい、慌てて聖の顔を見た。  なんか、さっきから機嫌を気にしてばっかだな。  初対面での印象のせいかもしれない。あの時の聖は確かに表情が険しかった。それはそれで魅力的ではあったが。 「そうそう、カナちゃんから、スタジオ少し早めの時間から使える、って聞いてたの思い出した」 「そーゆー大事なコト忘れないでよ〜」  とぼけた調子の爽汰に、秋都がすかさずツッコんでいる。  ドラマーの北条彼方(ほうじょうかなた)は、スタジオを経営している楽器店と同じ系列のレコード店でバイトしている大学生だ。  店が隣同士なので、こうして逐一情報をくれる。 「これ飲んだらぼちぼち行くか」  視線も気になるし、と透は周囲を見渡して思う。  実は地下に降りた時点から、老若男女問わずやたらとチラ見されていたのだった。 「あれ、翔からメール来てる。ちょっと遅れるって」 「じゃあ楽器隊だけで先に合わせておきますか」  飲み終わった透が立ち上がると、聖は慌てて残りのシェイクを吸い始めた。その仕草が可愛くて、つい笑みが浮かんでしまう。 「うわあ、トールがエロい顔してひーさんのこと見てる〜」 「おい西村、メンバー間で恋愛は禁止だぞ!」 「エロくないわ! 大体なんだよその呼び名!!」   既にメンバー扱いされていることや、恋愛云々の件にはあえて触れずに、透はさっさとゴミを捨てに行く。  しかし、後ろからちょこちょこと付いてくる聖の様子に、またしても微笑んでしまうのだった。

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