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第10話
結局、その日は他に数曲を合わせて解散となった。
スタジオを出ると、ちょうど蓮が接客しているところだった。相手は年配の女性である。
実際、この店は女性客の比率が高い。店員のルックスが原因なのは明らかだったが、初心者に親切なところも好評らしい。
支払いを済ませた女性を見送った蓮は、聖に気付いてにこやかに笑った。
「はじめまして、雇われ店長の永倉 蓮です。藤原くんだよね。エイジさんから聞いてるよ、ギターがすごく上手いって……今度、優磨に教えてやってよ」
完璧なまでの営業スマイルで挨拶され、聖はすこし気後れしているようだ。
「あれ、優磨さんはもう帰りはったんですか?」
彼方が空気を読んで話題をそらしている。
「うん、今日は早番だから……いらっしゃいませ!」
常連らしい客が現れ、蓮は透たちに手を振りながらそちらに移動していった。
「蓮くんも、優磨と同じバンドで鍵盤やってるんだよ」
彼も優磨と同じく、メジャーデビューに伴って退職予定なのだが、店側が引き止めているらしかった。
「さて、俺らも帰るか。後でメールするから、各自スケジュール確認よろしく」
「明日はテレビ局に現地集合?」
秋都に問われて、透は愕然とした。テレビ出演のことなど、すっかり頭から抜け落ちていたのだ。
「忘れてたわ……」
「マジか!?」
爽汰がおおげさに驚く。
「まあ、トークの収録だけで演奏はVTR流すそうだし。彼方と俺で回すから、あとは秋都が合いの手入れてくれたらいいよ」
「おい、俺らは置物か!」
ワイワイと話しながらエレベーターに向かっていると、不意に背中をつつかれる。
見ると、爽汰が深刻そうな顔で立っていた。
「なあ、西村……この後ちょっといいか? 藤原くんも一緒に」
察した透は、すこし離れた場所にいた聖をさりげなく連れてくる。
エレベーターの箱に乗り込んだ三人に目線を送ると、彼方が気付いて扉を閉めてくれた。あとの二人が騒ぐ声が消えていく。
「立ち話も何だから、メシでも食いに行くか」
そう言って、爽汰はエスカレーターの方に足を向けた。
おそらく、彼はリーダーとしての責任感から、新メンバーの加入を迷っているのだろう。
一曲目の聖のギタープレイが不安材料なのだと推察できる。
しかし運命を掴み取るためには、現状を打破する必要もあるはずだ、と透は覚悟を決めていた。
伸るか、反るか。
美しい天使となら、墜ちていくのもまた一興だろう。
まずは、その前に飛び立つ必要があるのだ。
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