12 / 74
第12話
女形というのは、ヴィジュアル系において一バンドに一人くらいはいる、女の子っぽい格好をしたメンバーのことだ。
「いや、そりゃ似合うだろうけどさ」
むしろ違和感がなさすぎて、女性メンバーが加入したのかと思われそうだが。
「だろ? 濃いめに化粧すれば、誰かわかんなくなるから大丈夫だし」
同意を得た爽汰は嬉しそうだったが、言っていることはなかなかの無茶振りだ。
「さすがに藤原くんも嫌だよね? その、女装とかするの」
問われた聖は、すこし首をかしげた。
あ~、可愛い。これ別に女形じゃなくても、じゅうぶん可愛いからいいんじゃないか?
透までおかしな思考になりかけて、慌てて頭を振って煩悩を追い払う。
聖は再び携帯の画面を二人に見せた。
素顔がわからないなら別にかまわない
「え、マジで!?」
意外な返事に、透は思わず弾んだ声を出してしまう。
「それなら、ヅラも被って本格的にやっちゃう!?」
「ヅラって言うなよ、ウィッグだよウィッグ」
野郎二人でつい盛り上がってしまう。聖は特に気にしていない様子だ。
「そうと決まれば、明日昼間のうちに衣装揃えようぜ~」
「根岸くんは仕事だろ?」
「そうだった……」
がっくりとうなだれる爽汰の肩を、ぽんぽんと叩いてやる。
「ここはフリーターに任せとけって。藤原くんは、それで大丈夫?」
こくん、とちいさく頷くのを見て、透はすこし心配になった。
「ひょっとして、無理してない? 嫌だったら別に教えてくれれば止めるし」
聖はその言葉ににっこりと笑う。
「じゃあ、バンドへの加入もオッケーってことでいいのかな」
順番が逆だな、と思いながら訊ねると、大きく首を縦に振ってくれた。
「よっしゃー! これでウチのバンドも安泰だな!!」
顔をくしゃくしゃにして笑う爽汰につられて、ついにやけてしまう。
「ありがとう。これから、よろしく」
手を差し出すと、やわらかな感触が触れた。ふかふかした手に、これがあの旋律を奏でるのか、と感慨深くなる。
この瞬間の決意を、忘れないようにしよう。
たとえ闇が訪れようとも、陽の光のように暖かな、この魔法の手を……やわらかな笑顔を、守ってみせる、と。
ともだちにシェアしよう!