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第12話

 女形というのは、ヴィジュアル系において一バンドに一人くらいはいる、女の子っぽい格好をしたメンバーのことだ。 「いや、そりゃ似合うだろうけどさ」  むしろ違和感がなさすぎて、女性メンバーが加入したのかと思われそうだが。 「だろ? 濃いめに化粧すれば、誰かわかんなくなるから大丈夫だし」  同意を得た爽汰は嬉しそうだったが、言っていることはなかなかの無茶振りだ。 「さすがに藤原くんも嫌だよね? その、女装とかするの」  問われた聖は、すこし首をかしげた。  あ~、可愛い。これ別に女形じゃなくても、じゅうぶん可愛いからいいんじゃないか?  透までおかしな思考になりかけて、慌てて頭を振って煩悩を追い払う。  聖は再び携帯の画面を二人に見せた。    素顔がわからないなら別にかまわない 「え、マジで!?」  意外な返事に、透は思わず弾んだ声を出してしまう。 「それなら、ヅラも被って本格的にやっちゃう!?」 「ヅラって言うなよ、ウィッグだよウィッグ」  野郎二人でつい盛り上がってしまう。聖は特に気にしていない様子だ。 「そうと決まれば、明日昼間のうちに衣装揃えようぜ~」 「根岸くんは仕事だろ?」 「そうだった……」  がっくりとうなだれる爽汰の肩を、ぽんぽんと叩いてやる。 「ここはフリーターに任せとけって。藤原くんは、それで大丈夫?」  こくん、とちいさく頷くのを見て、透はすこし心配になった。 「ひょっとして、無理してない? 嫌だったら別に教えてくれれば止めるし」  聖はその言葉ににっこりと笑う。 「じゃあ、バンドへの加入もオッケーってことでいいのかな」  順番が逆だな、と思いながら訊ねると、大きく首を縦に振ってくれた。 「よっしゃー! これでウチのバンドも安泰だな!!」  顔をくしゃくしゃにして笑う爽汰につられて、ついにやけてしまう。 「ありがとう。これから、よろしく」  手を差し出すと、やわらかな感触が触れた。ふかふかした手に、これがあの旋律を奏でるのか、と感慨深くなる。  この瞬間の決意を、忘れないようにしよう。  たとえ闇が訪れようとも、陽の光のように暖かな、この魔法の手を……やわらかな笑顔を、守ってみせる、と。

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