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第13話
聖たちと別れて帰路につく。透は一人になった途端、思わずため息が出てしまった。
このたった二日の間にあまりにも色々な事が起こりすぎて、キャパオーバー気味だったのだ。
とりあえず、明日はあの店に藤原くんを連れて行くとして……
問題なのは、誰と一緒に行くか、だった。
もちろん透だけでもいいのだが、一緒にバスに乗っただけでテンパってしまった前科があるので、聖と二人きりになることを想像しただけで緊張してしまう。
しばらく悩んで、透は翔にメールを送った。
透たちのバンド『EUPHORIA』は、細分化されたヴィジュアル系ジャンルの中では「キラキラ系」と称される。
いわゆる黒系といった、一般的に想像されがちなコテコテの風貌ではなく、かなりカジュアル寄りな見た目だからだ。
メイクもするが、白塗りなどはせずナチュラルに仕上げている。
メンバーの衣装は同じブランドで統一しており、翔はそこのデザイナーに可愛がられていた。
一人暮らしの部屋に戻ると、あまりの静けさに逆に神経が昂ぶった。
スタジオで聴いた、あの音がよみがえる。
既存の曲もアレンジし直さないとな。
ほぼ全ての楽曲を創っている透は、これから必要になる作業を考えて心が躍った。
明日も早いから寝なくてはと思うのだが、ついギターを取り出して弾き始めてしまうのだった。
*****
翌日。目指すブランドのショップからほど近い本屋で、三人は待ち合わせた。
集合時間の五分ほど前に着いた透は、漫画雑誌のコーナーにいる聖を見つける。相変わらずヘッドフォン装備なので、背後にまわっても気付かない様子だった。
ちょんちょん、と肩をつつく。振り向いた顔が、透を認めて笑顔になった。
素顔でこれだけ可愛いのに、化粧するなんてもったいないよな。
思わずそんなことを考えてしまい、透は慌てて彼が手にした雑誌に視線を移す。
聖が読んでいるのは、なかなかにグロい感じの青年漫画だった。本人の見た目は完全に少女漫画のヒロインそのものなのだが。
ヘッドフォンを外した聖を、音楽誌が集めてある一角に誘う。
「一応、小さいけど俺らのバンドが載ってるから。衣装のイメージだけ見ておいて」
透のバンドは、戦略のひとつとしてネットでの情報公開を抑え気味にしている。そのため、公式サイトやメンバーブログなどはまだ開設していないのだった。
期待のインディーズバンドという括りで紹介されたページには、プロモーション用の画像が載せられている。
「この時はちょっとダークな曲調だったから、ハードめなので揃えてるけど」
写真のメンバーは、エナメル素材のボンテージ風な衣装でキメていた。そこここにじゃらじゃらとチェーンやら鋲が付いている。
「女形のイメージ的には……う~ん、どれが近いだろ」
パラパラと雑誌をめくっていく途中で、透の手が止まった。開いたのは『CROWN』のメジャーデビュー告知記事だ。
赤い薔薇を手にしたメンバーのバストショットだったが、メインヴォーカルである優磨の隣にはバチバチのメイクをした美女が写っている。
「そういや、蓮くんも女形だったな。さすがにここまではしなくていいけど。それにしても似合うよなぁ」
最後は独り言のようになってしまったが、思わずそんな感想が漏れるくらい、蓮はサマになっていた。
「遅くなってゴメン! 車で来たら、停められるとこ探すのに時間かかっちゃって」
「せやから調べてからにしよ、って言うたやん」
背後から声をかけられ振り向くと、翔と彼方が並んで立っている。
「あれ? 彼方も一緒?」
「ファッションモンスターを差し置いて衣装決めとか、一番やったらあかんやつやん?」
彼方はそう言って、にっこりと聖に笑いかけた。
「てっきり彼方も誘ってるもんだと思ってたからさ」
翔がすまなそうに言って片手で謝る仕草をする。
「単位がヤバいかもって言ってたから遠慮したんだよ」
「そんなんかまへんって~、なんとかなるなる」
「いやいや無理だろ」
三人のやりとりを微笑みながら見ている聖。その姿に、思わず見惚れてしまう。
「トールがそんなデレデレしとんの、珍しいな」
ニヤニヤしながら指摘され、思わず顔が赤くなったのがわかった。
「デレデレなんてしてないって! いいから早く行くぞ!!」
「トール、ちょっと待った」
つい焦って雑誌を抱えたまま移動しそうになってしまった透は、気付いた翔に引き止められる。
「でもホンマ可愛いなぁ」
その隙に聖の隣に移動した彼方が、彼の顔をのぞき込んでいるのが目に入った。
「そこの距離感バカは自重しろ!」
透の叫びが店内に響きわたる。
相変わらず騒がしい一団は、周囲の視線を浴びまくりながら店を後にしたのだった。
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