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第14話
透たちが向かったのは、原宿の竹下通りから一本入ったところにある、ブラームスの小径と呼ばれる場所だった。
若者でごった返している表の道とはうってかわり、落ち着いた雰囲気の一角である。
そこに佇むのが、本田貴久が手掛けるファッションブランド『DILEMMA 』の直営店だ。
クラシックな外観は一見すると高級ブランドのようだが、デザイナーの意向で若者にも手に取りやすい価格帯で展開されていた。
「いらっしゃいませ。あら、今日はずいぶんと可愛らしい方をお連れになっていらっしゃいますね」
顔馴染みの店員の女性が、にこやかに応対してくれる。
「すみません、急な話で申し訳ないんですけど」
透は、一連の事情を説明した。
「そうですね……衣装やアクセサリー一式は、こちらでご用意できると思います。ちょっと失礼いたしますね」
そう言うと、店員は聖の全身を眺めた。
「サイズ的には既存のレディースで問題なさそうですね。ウィッグとメイクの手配もこちらでいたしましょうか」
「ぜひお願いします」
トントン拍子で話は進み、テレビの出演時間前にここで着替えてから局に向かう手筈が整った。
彼方と店員たちが総出で、聖を囲みながらコーディネイトを考えている。
今回の衣装は白系で統一するつもりだったせいか、さながら花嫁衣裳を選ぶ親族のように見えてしまう。
透は、未来の花嫁が試着するのを見守る花婿のような気分になっていた。これはこれで悪くない感じではある。
「では、今からご案内するお店でウィッグの試着をなさってください。後はお時間までにすべてご準備しておきますので」
「ありがとうございます!」
意気揚々と店を出た一団は、紹介された店へと足を運んだ。
今度は竹下通り沿いにあるので、人混みをかき分けながら進む。
「藤原くん、大丈夫?」
小柄な聖が埋もれてしまっているのを心配して、透が声をかけた。
頷いているそばから、ふくよかな体型の子に押し戻されている。
「しょうがないな、ほら」
仕方がない、という風を装って、左手を差し出した。細くて白い指が、なぜか親指だけをきゅっと握りしめる。
うっわ、これ普通に手つなぐよりも百倍可愛い……!
すこし照れたように上目遣いでみつめられて、透の理性は崩壊寸前だ。
「あれ~、トールだけずるくない?」
聖の後ろをついてきていた翔が、目ざとく二人の繋がれた手を見つける。
その声に気付いて、一番前にいた彼方も振り向いた。
「それ抜けがけやん! オレも聖くんと手ぇつなぎたい~」
そんなことを言いながら聖の横に並ぶと、素早く反対側の手を取る。しかも何気に名前で呼んでいるのはさすがだ。
「ちょ、彼方! それじゃ俺はどうすりゃいいんだよ」
わたわたと慌てている翔の姿に、聖が困った顔をしている。そしてその顔も抜群に愛らしい。
「やっぱり可愛いなぁ。このままオレと二人でデートせぇへん?」
顔をのぞきこんで言う彼方の頭を、翔の渾身のチョップが襲う。
「痛っ! 暴力反対!!」
「お前らうるせぇ」
透は呆れながら言うと、無理やり彼方の手を引き剥がした。そして、今度は聖の手をしっかりと握り直す。
「藤原くんは俺が責任を持って護るからいいんだよ」
「あ、じゃあ保護者はトールやけど、彼氏はオレやんな?」
「今度はラリアート喰らう?」
そんな三人のやりとりに、聖は満面の笑みを浮かべていた。
ふと、このまま二人だけでどこかへ行くことができたらいいのに、などと考える。
人の波に攫われてしまいそうに儚い君を、しっかりとつかまえたまま、どこまでも。
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