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第15話
ウィッグを扱うショップでは、既に連絡がいっていたようでスムーズに事が運んだ。
「今回は衣装が白やし、髪色は赤系でいこか」
彼方の提案で、赤みの強い長めのボブを選ぶ。それを外ハネ気味にセットしてもらい、スプレーで固めた。
あとはこれを先程の店まで運べば、ミッションコンプリートだ。
礼を言って店を出ると、ちょうど爽汰からメールが来た。これまでの経緯と今日のスケジュールを簡単に説明する。一括送信なので秋都にも伝わって一石二鳥だった。
「その前にメシ食いに行こうぜ~」
翔が腹のあたりを押さえながら言った。たしかにもう正午を過ぎている。
「そやけど、はよコレ見せてアクセサリー系を選んでもらった方がええよ」
「じゃあ彼方だけ行けばいいじゃん」
結局、じゃんけんの結果なぜか透が届けることになった。
「いいか、絶対に変なマネすんなよ?」
念を押してから聖と別れる。こころなしか不安そうな表情に思えて、つい連れて行きたくなってしまう。
「そこのファミレスな」
すこし歩いた場所にある看板を指差して翔が言った。その右手はしっかりと聖の手を握っている。
「おい、言ったそばから触るなよ!」
「なんだよ自分ばっか~」
翔がしぶしぶ手を離したかと思えば、今度は彼方が腕を組んでいる。
「ダメだ、やっぱ信用できない。全員で行こう」
聖を奪還しながら、透はさっさと来た道を戻った。
「ごめんな。藤原くんのことは、ちゃんと俺が」
言いかけたところで、服のすそをくいくいと引っ張られる。驚いて顔を見ると、聖の口がぱくぱくと動いた。
ひ・じ・り、と言っているらしいことがわかり、透は一気に頭が沸騰してしまう。
「え、あ、それって、つまり……名前で呼んでいいよ、ってこと?」
こくこくと頷く姿に、思わず抱きしめてしまいそうになった。
これ天然でやってるんだよな……やばい、このままじゃ俺の心臓もたないぞ。
透は顔が熱くなるのを感じて、他の二人にバレないように必死でポーカーフェイスを貫いたのだった。
*****
夕方、『DILEMMA』にメンバー全員が集まった。
「つーか、なんで二人ともここに来てんの?」
「そりゃー、ひーさんの女形姿を三人だけ先に見るなんてズルいじゃん」
秋都は衣装合わせに呼んでもらえなかったので機嫌が悪い。
「そうそう。やっぱり最初に見たいわけよ」
爽汰は会社から直行したためにスーツ姿のままで、明らかに浮いている。
聖はといえば、試着室で着替え中だった。最終的にテレビ局の楽屋で、呼んでもらったヘアメイクの人に仕上げをしてもらう予定である。
カーテンが開いた瞬間、その場にいた全員の視線がそちらに集中した。
「わぁ、ひーさん天使みたい!」
秋都の感想は、そのまま透が思ったことでもあった。
衣装全体の生地は白のエナメル調。トップスはスタンドカラーに半袖で、フィンガーレスのオペラグローブをはめている。
ボトムスは脚にフィットしたタイトなものだが、テニスのスコートのようなミニスカートを合わせて愛らしく仕上げてあった。
低めのヒールの編み上げブーツも白で、立ち姿はまさに純白の天使といったところだ。
「なぁ彼方、ちょっと露出高すぎじゃないか?」
「ん? おなかが見えとるから?」
彼方の言う通り、丈の短いトップスから聖の肌がのぞいていた。いわゆるヘソ出しルックだ。だが、色が白いので妙に艶かしく見える。
そういう目で見ると、袖とグローブの間の二の腕や、襟の隙間からちらりとのぞく鎖骨も色っぽく思えてきてしまう。
「トールがいやらしい目で見るからやん」
あっさりとそんなことを言われて、透は自分の感覚がおかしいのかと思った。
実際は嫉妬心から、他人に聖の肌を見てほしくない気持ちがあるだけの話だったのだが。
ともあれ、これで衣装は揃った。
「でも、ひーさんこのままでテレビ局に行くの?」
秋都の質問に、透が悩む。
「移動は翔の車だけど、そこに行くまでがな……」
「原宿だし、外も暗くなってきたから大丈夫じゃないのか?」
「そうそう。むしろ根岸くんのスーツの方が目立つって」
爽汰のセリフに、翔が妙なフォローをする。
「なら、これ羽織ったらええよ」
おもむろに自分の上着を脱いだ彼方が、それを聖の肩にかけた。
丈の長いアウターなので、スカート部分も隠すことができる。
聖が、彼方を見上げてぺこりとお辞儀をした。
デレデレに照れている彼方を見て、透はあまりいい気分ではなかった。だが、ここは妥協するしかない。
ついでに全員分の今日の衣装も借りて、ぞろぞろと翔の車へと移動する。
しかし何を着ていようが目立つ集団なので、そもそも視線を集めることには変わりがないのだった。
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