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第2部 1話
あのテレビ出演の日から、半年が経過した。
予想通り、ネットで正体不明の謎の美少女(?)ギタリストとして話題になった聖だったが、エイジの尽力により今のところプライベートの情報は流出していない。
バンドとしても、拠点にしていた練習スタジオを別の場所に替えるなどの対策をしていた。
そして、今ではメジャーデビューに向けて水面下で様々な交渉を行っている状況である。
「今日のゲストは、話題のバンド『EUPHORIA』から、ヴォーカルの翔くんに来ていただいています!」
「こんにちは」
カーステレオから流れる自身の声に、翔は照れくさいような不思議な気持ちになった。
ここは、都心から車で一時間ほど走った山の上だった。地元の景色に似た場所を探して、翔はたまにこうした田舎道をドライブする。一種のリラックス法だ。
「新メンバー加入後、初の新曲リリースを控えているわけですが……」
数日前に収録したラジオのインタビュー。フロントマンである翔は、必死で自分のバンドをアピールした、はずだった。
「そうなんですよ! この新メンバーが信じられないくらい可愛くって!! で、ギターもめっちゃくちゃ上手いんっすよ!!!」
緊張しすぎて記憶が飛んでいたが、どうやら聖のことばかり喋っていたらしい。
「で、では早速その新曲をお聴きくださ~い、曲紹介どうぞ」
パーソナリティが引き気味なのがわかり、後悔が押し寄せてくる。だが、新曲のイントロが流れた途端にそんな思いは吹っ飛んだ。
今回の曲は、透にしては甘めな雰囲気のミディアムバラードだった。クラシックを意識したと言っていたが、アレンジも普段より豪華に仕上げてある。
そして、そんな中でもひときわ美しく響き渡る、ギターのアルペジオ。
山頂から見渡す雄大な景色とマッチして、とんでもない名曲のように聴こえる。
実際、俺らの曲の中では一、二を争う出来栄えだな。
それが聖のギターテクニックによるところなのは確かだが、他のメンバーの演奏技術もこのところ格段に上がっていた。
特にリーダーの爽汰は進歩がめざましい。聞くところによると、聖からアコギも教わっているらしかった。
翔もボイストレーニングに通ってはいるのだが、正直そこまで真剣に習っているわけではない。
だが、みんなが必死で聖についていこうと努力している姿を見て、刺激を受けないはずはなかった。
やっぱり別のところ探したほうがいいかなぁ……。
今教わっているところが悪いわけではないのだが、やはりプロを目指すとなると更に上のレベルに行く必要があるように思われる。
実は翔は、子どもの頃に割と本格的なレッスンを受けていたことがあった。
小学校の音楽の先生に勧められて、地元の合唱団に加入していたからだ。所属していたのは、数々のコンクールで入賞しているようなガチの団体だった。
当時はあまり乗り気ではなかったのだが、その時の経験が今に生かされているのも確かだ。
そういえば、最後に出たコンクールにすっげー綺麗な歌声の子がいたな。
ぼんやりとした記憶だが、その歌声を聴いてしまった翔は、自信を喪失して合唱団を辞めてしまったのだ。
理由が理由なので、あまり思い出したくない話だった。そのおかげで今では歌っていた子も、その歌声もはっきりとは浮かんでこない。
それでも、翔はなにか心に引っかかりを感じた。
封印したはずの記憶を、掘り起こさなくてはいけないような。
実家に音源とか残ってなかったかな。
次の休みの時に里帰りでもするか、と考えながら、翔はシートベルトを締めた。
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