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第2部 5話

 爽汰に連絡すると、仕事が終わって帰宅していると返事が来た。  三人が今から行くとだけ伝えてなだれ込むと、既に秋都がアイスを食べながら寛いでいた。 「みんなおっそ~い!」  退屈だったのか、リビングに入るなり睨まれる。 「あれ? 根岸くんは?」  部屋の主が見当たらないので訊くと、黙ってキッチンを指さされた。  のぞいてみると、ちょうど夕食を作っていたところらしく、香ばしい匂いが広がっている。  案の定、手にしたフライパンの中にはチャーハンが鎮座していた。 「ま~たチャーハン? たまにはサムゲタンとか作ってよ」 「いやそれ手軽に家庭で作れる料理ちゃうから……」 「サムゲタンって、どこで材料買えるんだよ?」  背後からのツッコミと目の前で炸裂するボケは無視し、翔は出来上がったチャーハンをリビングに運んでやった。 「なんで俺の夕飯を全員で食べようとするわけ?」  爽汰はぼやきつつも、小皿に均等にチャーハンを取り分けていく。 「いっただっきま~す!」 「相変わらずフッツーの味やなぁ」 「文句あるなら食うなよ~」  わいわいと騒ぎながらの食事が終わると、彼方と秋都が後片付けをしてくれている間に例の動画を爽汰にも観せた。 「え? これがひーさん? マジで? すごくない?」  疑問符だらけの感想を述べながら、爽汰は真剣な表情でスマホの画面に見入っている。 「本人かどうかの確認は取れてないけどな」 「あれ、じゃあひーさんはこの動画のこと知らないのか」  ひと通り今までの経緯を説明する。キッチンから二人が戻り、リビングに聖を除く全員が揃った。 「俺さ、このままじゃバンドのためにも良くないと思うんだよね」  翔は、このところずっと考えていたことを話し始めた。 「あえて触れんようにしてたのは事実やからな……本人も教えたくなさそうな雰囲気やし」  彼方の言葉に他のみんなが頷く。 「プライベートに踏み込むのが、必ずしも良い結果を生むとは限らないよな。ただ、何も知らされないままでは納得がいかない、っていう翔の気持ちもわかるよ」  透は、個人的には聖の状態を知ることについて否定的なようだった。ただ、彼に最初に会って加入を決断した手前、メンバーの意見を尊重しようとする姿勢は見て取れた。 「オレは、このままでも問題ないと思うんだけどな。バンド活動に支障が出てるわけじゃないんでしょ?」 「俺らはいいとしても、この先ネットやなんかで話題になる可能性はあるよ。実際、テレビに出た時も正体は誰かって話が出てただろ」  透の反論に、秋都はそれもそうか、と難しい顔をして黙り込んだ。 「とりあえずオレらの間では、理由を知ってそうな落合さんに探りを入れるって話になってんけど」  彼方の問いかけに、それまで俯いてずっと沈黙を守っていた爽汰が顔を上げた。 「俺は、本人に直接訊いた方が良いと思う」  さすが実直がウリのリーダーだけあって、出てきた結論はド正論だった。 「そこが難しいからこうやって話し合ってんだろ~」 「や、でもやっぱさ、こそこそ訊いてまわるのって男らしくないじゃん」 「真面目か!」  そうやって茶化しつつも、やはりこの場にいる全員が実は同じ思いだったことが窺えた。 「でも……これが原因で、ひーさん脱退しちゃったりしないかな……?」  秋都のつぶやきは、やはり全員が心配していることでもあった。 「そればっかりは、本人の意思を尊重するしかないだろ。ただ、俺らは何があっても彼のことを全力で護る」  透の決意は、その場の空気を一変させた。 「よし、じゃあ善は急げだ! 早速ひーさんにメールするぞ」  言いながら既に立ち上がっていた爽汰が、壁にかけてあったスーツのポケットから携帯を取り出している。  しばらくすると、全員の端末に通知が来た。 「なんでメーリングリストの方で連絡するん」 「つーかなんだよこの誘い方。ふざけてんの?」 「深刻すぎると来てくれないかと思ったんだよ!」  翔が画面を確認すると、こんな文面が目に飛び込んできた。 『ひーさん、今から俺の手料理食べにウチに来ない? (ハート)』

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