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第2部 6話
場所がわからない、というごく当たり前の返信を受けて、一行はなぜかカラオケボックスに繰り出していた。
大人数ですぐに入ることの出来る個室、というのがここしか浮かばなかったのだ。
「ひーさんに俺の愛情いっぱい味噌汁を飲ませてやろうと思ったのに」
「それ出汁から取るやつやろ? 時間かかってしゃーないわ」
しょんぼりしている爽汰に、彼方が容赦ないツッコミを浴びせている。
「よ~し、歌うぞ!」
秋都はなぜか張り切って男性アイドルの曲を入れまくっていた。
おそらく、暗くなりそうな場の空気を盛り上げていこうと彼なりに考えているのだろう。
ただ単に歌いたいだけという可能性も否定はできないが。
「誰が切り出す?」
「そこはやっぱトールでしょ」
「いやリーダーやないんかい」
額を突き合わせてぼそぼそと話し合っていると、大音量のイントロが響き渡った。
「タカアキうっせーよ!」
翔は思わず滅多に使わない呼称で文句を言ってしまう。
秋都が二曲目を歌い終わったあたりで、携帯にメールが来た。
「聖、いま店の前にいるって。俺迎えに行ってくるわ」
透が宣言するより早く、既に他の四人が扉に向かってダッシュしていた。
「ここはリーダーである俺が!」
「あかんて、やっぱ彼氏が行ってあげな!」
「ボディーガードなら俺だろ!」
「おっさき~!!!」
なぜか先程までマイクをガッチリ握っていたはずの秋都が、一番に飛び出していく。
「ちょ、待てよ!!!!」
どこかで聞いたことのあるフレーズが宙に浮いた。
結局、一抜けした秋都に任せることになり、四人は肩を落としながら席に着く。
しばらくすると、部屋の扉が開いた。
聖が入室しただけで、その場の空気が浄化されたような気がしてしまうのはなぜだろう。
「ひーさん悪いな、急に呼び出して」
爽汰の言葉に、ふるふると小さく首を振っている。可愛い。
当たり前のように中央の席に案内され、ちょこんと座った姿もまた可愛い。
「とりあえず、なんか頼み」
すかさず彼方がメニューを差し出した。ちゃっかり横に並んでいるところはさすがだ。
その反対側では壮絶な場所取りが繰り広げられていた。
翔はそれには参加せず、テーブルを挟んで聖と向かい合う。
彼方と二人でメニューを眺めている聖を見て、翔はなぜか、彼がここに呼ばれた理由を自身でわかっているような気がしていた。
はっきりとした決め手があるわけではないのだが、表情や態度に緊張が表れているように思う。
「えーっと。今日、聖をここに呼んだ理由なんだけど」
注文が終わったところで、透が切り出した。言いながらノートパソコンを操作している。
「ちょっとこれ観てもらっていいかな」
動画が再生され、天使の歌声が狭い部屋のなかに響き渡った。
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