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第2部 7話
一見すると、聖からはあまり動揺が感じられなかった。
しかしよく観察してみれば、そのふっくらとした頬には緊張して強 ばっている気配があることがわかる。
青っぽい照明に浮かぶ白い肌も、こころなしか普段より色を失っているように思えた。
翔の右隣にいる透が、動画を発見した経緯を説明している。
「この、歌ってる子ってさ。ひーさんなのか?」
今度は翔の左に座っている爽汰が話しかけた。
聖は、ごくちいさく、でもはっきりと頷く。
張り詰めていたその場の空気が、少しだけ緩んだ。
「やっぱそうか〜。でも、すごい偶然だなぁ」
透が嬉しそうに笑っているのを、翔は不思議な気持ちで眺めていた。
なんだろう? 胸の奥がざわざわする。
聖の方に目をやると、ちょうど顔を上げた彼と視線がぶつかった。
なんだか泣きそうな顔をしているように思えて、心臓を鷲掴みにされたような錯覚に陥る。
「聖、こん時は声出とったんやな」
瞬間、弛緩したはずの空気が凍りついた。彼方は、黙ってパソコンの画面を聖の方に向ける。
パチ、パチ、と躊躇いがちにキーを叩く音がこだました。
このあと、のどをいためた
真っ白な画面の中に浮かぶ文字の羅列。
翔は最初、なぜかその意味するところが頭に入ってこなかった。
このあと、という単語に、記憶がフラッシュバックする。
動画の、あと。
彼の歌声を聴いた、そのあと。
俺は、なにをしていた? なにを……見た?
ズキズキと痛む頭を押さえながら、翔は必死で記憶を手繰り寄せていた。
そんな彼の様子には気付いていないのか、のんびりとした声が耳に届く。
「そっかあ、じゃあ声帯を痛めてるから、声が出せないんだね」
秋都はよしよし、と聖の頭を撫でていた。
普段ならそんな光景を見たら黙っていないはずの面々が、それぞれ難しい顔をして固まっている。
翔もまた、おそらく他の皆と同じ疑問を抱いていた。
本当に、それが理由なのか……?
そもそもいつから始まった症状なのか。もし動画の直後なのだとしたら、そんな長期に渡って声が出せなくなるものなのか。
疑問は、あとからあとからあぶくのように湧いて出てくる。
しかしそれらは、言葉になる前に全て弾けて消えていった。
「ま、とにかくこれで収まりはついたよな?」
爽汰が翔の顔を見て言った。
それは、今後この話題を出すことはタブーになるという意味なのだろうか。
真意を測りかねて見つめ返すと、いやに真剣な表情で頷かれる。
なんだかおかしくなってきて、翔は思わず吹き出した。
「おい〜、なんでそこで笑うんだよ」
「いや、なんかすっげー大真面目な顔してっから」
「俺はいつでも真剣だぞ!」
「ウッソだ〜」
緊張していた場が、一気にいつもの雰囲気に戻る。
聖もまた、愛らしい笑みを浮かべていた。
やっぱ可愛いよな、と再確認しつつも、普段とはどこか違っているような気がしてならない。
皆と一緒に爽汰をからかいながらも、翔は頭の片隅に冷静な自分がいるのを感じていた。
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