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第2部 10話
「そうだ、たしか……」
そうつぶやくと、貴久は器用にマウスを操りながら画像のフォルダを開く。
「うわ、なんだこの神ツーショット!」
画面に表示されたポートレートを見た瞬間、翔が叫んだ。
まるでアイドル雑誌の表紙のような、爽やかな笑顔をした貴久の隣に並ぶ人物。
「すげー、松浪 くんと本田くんが一緒にいる……」
かつて貴久は、四人組のヴィジュアル系バンドを組んでいた。松浪佳祐 はその時のメンバーの一人だ。
彼らのバンドは、今では伝説として語り継がれているのだった。
「これって、今年の春に呼んでもらったバーベキューですよね?」
「そうそう、この時東堂と根岸は途中で帰ったんだったな」
翔はがっくりと肩を落とした。スタジオの予約をしてあると言って切り上げた自分たちが恨めしい。
「まぁ、それはいいとして……」
貴久は画像の端、ぼんやりと人影が写っている箇所を拡大した。
ピントが合っていなくてボケているのを、加工して見やすくする。
「あれ? ここにいるのって」
横顔しかわからないが、その人物は聖に似ているように思えた。隣にはエイジがいる。
「やっぱり、これが藤原くんなんだ」
「えぇ〜、聖まで来てたのか……」
ひょっとしたら、透よりも先に逢っていた可能性があることを知り、翔はますます落ち込んでしまう。
「落合さんが連れてきてたんですね」
一緒に写っているのだから、当然そうなのだと翔は思った。
だが、意に反して貴久は首を横に振っている。
「それが、松浪の連れだったんだよ」
「え? なんで……」
言いかけて、翔は黙り込んだ。バンドを組んでいた時の、佳祐のパートがギターだったことを思い出したのだ。
「あいつ、藤原くんのこと俺に紹介してくれなかったんだよな。まぁ慌ただしくてあまり話せなかったのもあるけど」
貴久いわく、写真はたまたま誰かに頼まれて撮ったもので、実際はほとんど別行動だったらしい。
「本田さんはホスト役で忙しそうでしたもんね」
「おかげで今まですっかり忘れてたよ。もっと早く思い出してたら、話もスムーズだったかもしれないのに。悪かったね」
「いえ、とんでないです。それにしても、こんなところで繋がるなんて」
翔は柄にもなく、運命などというものの存在を感じた。
それはまさに今、ゆっくりと動き始めたところだった。
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