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第2部 15話

 いつものバーの、いつものボックス席。  お互い聖の隣に座ることを遠慮した結果、翔たちはなぜか二対一で向かい合う形になっていた。  たどたどしい説明を続ける翔の横で、透は次々とグラスを空にしている。  どうやらバイクはここに預けて、翔に送らせるつもりのようだ。  一方の聖は、頼んだカクテルの半分も飲んでいないのに既に酔っているようだった。  白い肌や目尻をほんのりと紅く染め、大きな瞳を潤ませている。  ひと通り話が終わり、沈黙が訪れた。  翔は野菜ジュースをちびちびと飲みながら、透が口を開くのを待つ。 「聖のギターは、松浪くんの直伝なのか……」 「え、そこ?」  透がグラスを弄びながらぽつりと発した言葉に、翔はおもわずツッコんでしまった。  ヴォーカリストの翔にはいまいちピンとこない部分だったが、透は同じギタリストとして色々と感じるところがあるのかもしれない、と思い直す。 「声に関することはさ、俺たちも出来るだけサポートするし。聖のタイミングで、喋ってもいいかなって思えた時で構わないから」  透はそう言って聖に笑いかけた。その言葉に翔も大きく頷く。  聖がふんわりと微笑むのを見て、改めて護ってやりたい、という気持ちが湧いてくる。 「あいつらにも早めに話しとかないとなあ。明日のスタジオ予約は午後からか」  携帯でスケジュールを確認した透がつぶやいた。 「根岸くんって、まだ有給消化中なんだっけ?」 「さあ? でもレコーディングのために取っておいたって言ってたような」  唯一の会社員である爽汰は、バンド活動のために普段からあれこれ会社で根回ししているらしい。 「根岸くんは何でも貯め込むなぁ」  普段からケチだの守銭奴だの言われている爽汰だが、本人に言わせると将来のために必要なのだそうだ。 「明日、レコーディングの前に集まれそうか訊いてみるよ」  透がメールで連絡を取っている間、手持ち無沙汰な翔は聖に話しかけるネタを探す。 「そういや、聖のバイト先ってギタリストの間で超有名な店なんだって? そんなとこで働けるって、すごいよな」  更にメンテナンスを任されているというのだから大したものだ。  だが、当の聖はあまり実感がないのか、微妙な顔をして首をかしげている。 「ひょっとして、そこも松浪くんの紹介なの?」  こくりと頷く聖の表情に、翔はなにか不思議な感覚がした。  思えば、先程からそうだった。佳祐の名前が出るたび、彼はすこし照れたような、嬉しそうな顔になる。  まさかとは思うけど、松浪くんがライバルになる可能性もあるのか……?  とんでもない強敵が出現しそうな予感に、翔は身震いをした。 「明日、昼飯を根岸くんのところで食べるって話になってるけどいいかな」  透の問いかけに頷きながらも、翔は突然の展開に動揺していた。  もちろんただの勘違いかもしれない。そもそもつい最近、思い込みでとんでもない誤解をしたばかりなのだ。 「ま〜た明日もチャーハンかなぁ」  透がぼやくのを頭の片隅で捉えながら、翔はこれからどう聖に接するべきなのか悩んでいた。

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