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第2部 16話
二人を自宅まで送る道すがら、翔はなんとか聖の佳祐に対する気持ちを探りだそうと思っていた。
だが生憎、早々と後部座席に横たわった聖は、すやすやと寝息をたてだしてしまう。
「聖って酒に弱いんだな。気を付けてやらないとマズイなぁ」
助手席に座った透はといえば、あれだけ飲んだ癖にケロっとしている。
「少し休ませてやるか。翔、先に送ってってよ」
透の提案に含みを感じて、翔は気を引き締めた。
酔った聖とわざと二人きりにするということは、それだけ信頼しているのだという透なりの宣言でもあるのだろう。
「わかった。安心してよ、寝込みを襲ったりはしないから」
冗談めかして言ってみたが、透はノッてこなかった。代わりに、えらく真面目な顔をして正面を向いている。
「翔……聖のこと、好きなのか?」
「えっ? あ、あーっと」
いつかは訊かれることもあるだろうと覚悟はしていたが、思っていたよりずっと早かったせいで挙動不審になってしまった。
「さっき、告った」
「は? マジで? その上アレか!?」
どうやら、例の場面について言っているらしい。
「いや、あれはなんつーか、その場の勢いみたいな……大体、まだ返事も聞けてないし」
自分で言っておきながら、翔はなぜか絶望的な気持ちになった。佳祐のことが引っかかっているせいだろう。
「ライバルは多いだろうなとは思ってたけど、まさか翔に先を越されるとはなぁ」
「俺は年季が違うからさ」
嫌味っぽく聞こえたかな、と翔は心配になったが、透はあまり気にしていないようだ。
「でも、改めて考えるとすごい偶然だよな。そう思うとさ、なんか……俺らって、集まるべくして集まったっていうか……運命とか、信じたくならない?」
珍しく饒舌な透に、翔は驚きながらも共感する部分はあった。
「なに、トール酔ってんの?」
それでもなんだか照れくさくて、つい茶化してしまう。
「悪いかよ。あー、今すぐここでギター弾きてぇ」
そう言うと、透はエアギターを始めた。どうやらメロディーを思いついたようで、ふんふんと歌い出す。
「もう新曲? 才能ありすぎだろ」
「おう、有り余って大変だよ」
二人の掛け合いに目を覚ました聖が、後ろで身体を起こすのが見えた。
「聖、ごめん。うるさかったな」
タイミング良く赤信号で止まったので、振り向いて詫びる。
聖はまだ焦点の定まらない様子で、それでも小さく首を振った。
寝起きの気怠げな雰囲気が、まだ酔いの醒めていない表情と相まって妙に艶っぽい。
翔はそんな彼の姿を目にして、理性を保つ自信を失ってしまう。
「あ、そこでいいよ」
不意に話しかけられて焦りながらも、翔は出来るだけ穏やかにブレーキを踏んだ。
「翔ありがとな。聖、気を付けて帰れよ? じゃ、また明日」
透は笑顔で挨拶をすると、颯爽と立ち去っていった。とても酔っている人間の所作とは思えない。
聖はといえば顔の横でちいさく手を振っていて、その仕草はこの上なく可愛らしい。
「聖、家の場所教えてくれる?」
彼が携帯で表示した場所は、都内の一等地だった。
「すげーとこ住んでるんだな」
思わず感嘆の声が出てしまう。
翔がナビをセットしている間、聖は携帯に何か打ち込んでいた。
やがて向けられた画面に表示されていた文字に、翔は目を疑う。
まつなみさんのうち
「へ? 聖、松浪さんと一緒に住んでんの……?」
翔がよっぽどマヌケな顔をしていたのか、聖がおかしそうに笑いながら首を振る。
名義が、まつなみさんの。あのひと、結婚して子どももいる
その文面に、翔はほっと息をついた。
やはり自分の勘違いだったことに安堵しつつも、今度は聖の様子が気になる。
既婚で子持ちであることを説明する彼は、なんとなく寂しそうに見えた。
ひょっとしたら、聖は……
思い浮かんだ可能性を、翔は必死で打ち消した。
どちらにしろ、それはもう過去の話なのだ、と自身に言い聞かせる。
惑う気持ちが見透かされないように、翔はいつも以上に慎重に愛車を発進させた。
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