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第3部 10話

 アルコールの力を借りる、というと聞こえは悪いが、聖はそうでもしないと返事が出来ない気がしていた。  雨のせいで部屋に直帰してしまったので、透は近所のコンビニに買い出しに行ってくれている。  どうしよ、緊張してきちゃった……。  勢いでここまで来たのはいいが、いざひとりになるとあれこれ考えてしまう。  落ち着かないまま、改めてキョロキョロとまわりを見渡す。  音楽とバイク関係で構成されている部屋には、ところどころ観葉植物が飾られていた。  窓際に目をやると、あれは盆栽というのだろうか。鉢に植えられた、ちいさな木が置かれているのに気が付いた。  植物に詳しいわけではない聖は、それがどういう種類の物なのかわからない。  だが、なんとなく大事に育てられているように思えて、微笑ましい気持ちになった。  そんな風にあれこれ眺めている間にだんだんと落ち着いてきて、今度は眠気に襲われてくる。  透が戻ってくるまでの間にすこしだけ休もうと、聖はソファに横になった。 ***** 「お〜い、聖。こんなとこで寝たらホントに風邪ひくよ」  耳元で聞こえる声に目を開けると、すぐ側に透がいた。 「あ、あれ? 寝ちゃってた……」  ごめん、と謝りながら慌てて起き上がろうとすると、透の手が優しく身体を支えてくれる。 「もう結構いい時間だし、今日は病院にも行ってたんだろ? 疲れてるんだよ。でも、寝るならちゃんとベッドで、ね」  微笑んだ透の顔に、なぜか胸が締めつけられた。  その優しさに、溺れてしまいたくなる。 「でも、おれのワガママで買い出しも行ってくれてたのに」 「そんなの気にしなくていいよ。コンビニめっちゃ近くだから。それに」  透は意味ありげに言葉を切ると、聖の髪をくしゃくしゃとかきまわした。 「おかげで、カワイイ寝顔も見られたしね」 「もう……」  さすが爽やかイケメンは言うことが違う。聖は照れながら、微笑む透を見上げた。 「いまので眠気がどっかいっちゃったよ」 「やった」  いたずらっぽく笑うと、透は買ってきたものをテーブルに並べ始める。 「聖は甘いお酒がいいんだよね? あと、つまみと水と……」  次々と袋から出てくる品々。絶妙に聖の好みに合わせているところが透らしい。 「じゃあ、遠慮なく……いただきます」  アルコール三パーセント、というジュースのようなカクテルを飲みながら、聖は隣に座る透を見る。  バーでもかなり呑んでいた気がするが、今もケロッとした顔で缶ビールを流し込んでいた。 「透って、お酒強いよね」 「あぁ、遺伝かなあ? よくわかんないけど、あんま変わらないとは言われるね」  すぐ肌が赤く染まってしまう聖にしてみれば、羨ましい体質だ。 「いいなぁ。なんか、男らしい感じで」 「でも、聖だって見た目の割に男っぽいとこあるじゃん」  それは確かに、自他共に認めるところだ。もちろんギャップのせいで印象が強いだけとも思っているのだが。 「俺は聖のそういうとこ、好きだけどな」  透がぽつりとつぶやいたのを最後に、不意に沈黙が訪れる。  話を切り出すなら今だ、と頭ではわかっているのだが、聖はどうしても最初の一言が出せないでいる。  代わりに、透の顔をのぞき込んだ。  悪い癖だと自覚はあるのだが、ついこうやって相手の反応を探ってしまう。  普段なら照れる透が、まっすぐ視線を受け止めた。  それを合図に、聖は覚悟を決めて話しだした。

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