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第3部 13話
「ありがと」
店の前でバイクを降りて、聖はヘルメットを透に渡しながら礼を言った。
「こーゆーの、いかにも恋人同士です、って感じしない?」
満面の笑みで言われて、聖は思わず透の手からふたたびメットを奪い、それで頭を叩いてしまう。
コツ、と軽い音がして、バイザーの下で透が苦笑した。
「俺のコイビトは過激だなぁ」
もう何をされても笑っている透に、聖は呆れてものも言えない状態だ。
「帰りも迎えに来てやろうか?」
すっかり調子に乗った彼を「それは遠慮しとく」と冷たくあしらってみる。
案の定しょんぼりした様子なのが可愛くて、聖はにっこりと笑った。
「あとで、電話するから」
そのたった一言で、目の前の人物は機嫌を直してくれた。普段はクールな印象が強かった分、ギャップがすごくて余計に愛しく感じてしまう。
「俺も、あとでメール送る。仕事頑張って」
「うん。またね」
名残惜しそうな透の視線を受け止めながら、聖は店の中に入っていった。
休憩時間に携帯をチェックすると、宣言通り透からメッセージが届いていた。
可愛らしい顔文字が「I Love You」「さみしいよ」と伝えている。
どう返信したものやら迷った挙げ句、聖は帰宅時間の予定だけを送っておいた。
*****
数日後、エイジから「正式な打ち合わせの前に、もう一度確認しておきたいことがある」と連絡が来た。
おそらくは聖とふたりで、ということなのだろうと思うが、一応は透も誘っていいか訊いてみる。
エイジさんと二人でも別に問題ないんだけど、透が拗ねちゃいそうだもんなぁ。
あの告白を受けた翌朝からの透の態度は、前夜の理性的な行動とは正反対に浮かれまくっていた。
我慢させすぎちゃったかな、などと小悪魔なことを考えながら、聖は一連の出来事を思い出す。
バイト先の休憩室だということも忘れて、つい口元が緩んでしまった。あわてて他のスタッフに見られていないか確認してしまう。
おれも人のこと笑えないか。メンバーの前とか、気をつけないとまずいなぁ。
特に秋都や彼方は鋭いから、おそらくふたりの間に何かあったことをすぐに勘付くだろう。
透には、彼らの前では自粛してくれることを願うばかりだ。
そして、気がかりなのは翔の存在だった。
透と想いを確かめあった以上、きちんと報告をするのが筋だとは思う。
だが、もしこのことで何かバンド内にぎくしゃくする空気ができてしまうのなら、しばらくは様子を見て、ほとぼりの冷めたところで話した方が良いのではないか、などと弱気なことを考えてしまっていた。
長い付き合いらしいから、そんなことで気まずくなったりするものでもないのかもしれないけど。
まだまだ障害の多い恋だな、などと思いながら、聖はちいさくため息をついた。
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