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第3部 16話

 翌日、緊急召集と称して爽汰の部屋に集められた面々は、難しい顔をして透の説明を聞いていた。 「別に理由はどうあれ、メジャーデビューできることに変わりはないんでしょ。何か問題があるの?」  ひと通り話を聞いた秋都は、そう言って聖の方を向いた。  彼が励ますように頷いてくれるのを見て、すこし気持ちが楽になる。 「まあ、西村の言いたいこともわかるけどな。なんつーか……男のプライドに関わる話みたいなやつだろ?」  爽汰はわかったような口をきいているが、誰にも賛同されなかった。   「その、プロジェクトだかの話はもういいよ。とりあえず今は、オープニングアクトを引き受けるかどうかを話し合いたいんだから」  透が投げやりな調子で話すのを見て、彼方が顔をしかめる。 「そやけど、トールがそないモヤモヤしたままでツアーに突入するのは、バンドにとっても良いことやと思えんけどな」 「だから、俺は別に気にしてないって。ずっとそう言ってるし」  引きずっているのは誰の目から見てもあきらかなのに、透はかたくなにそのことを認めようとしない。  聖は、ただ黙って成り行きを見守っていた。  なにか言おうにも、言葉が見つからないのだ。  まさかこんなツアー前のタイミングで、しかも自分のせいでバンド内に亀裂ができるような事態が起きるとは。 「オープニングアクトにしたって、大きいステージを経験できるチャンスだろ」  それまで沈黙を貫いていた翔が、ようやく口を開く。 「そうそう。トールは、いろいろとこだわり過ぎだよ。実際、ひーさんのおかげでここまで来たようなもんじゃん」 「じゃあ、こいつがいなかったら俺たちはどうなってたわけ? 今頃、とっくに解散してるとでも言うのか?」 「西村、ちょっと落ち着けよ」  爽汰が間に割って入る。  どうにも他のメンバーとの温度差がありすぎて、話し合いは成立しそうになかった。  聖にしても、どうしてここまで透が荒れているのか、真意を測りかねている。 「聖は、プロジェクトの件は最初から知ってたんやろ」  彼方に問われて、聖はちいさくうなずいた。 「大体、落合さんの説明の仕方がおかしいねん。聖を売り込みたいんやったら、もっと他にいくらでも手段はあるやろ、って話やで」 「まぁねぇ。それこそ『CROWN』にねじ込むとかすれば、もっと早くデビューできてたわけだし」  秋都の発言を聞いて、聖は蓮の不自然な態度を思い出す。  ひょっとしたら、以前にエイジからそういう話があったのかもしれない。 「とにかく、みんながひーさんに加入してもらいたいって思ったのは事実なんだしさ。もう、それでいいじゃん」 「だから、最初からそう言ってんだろ」  完全に話題がループしてしまっている。仕方なく爽汰は、オープニングアクトの件に議題を移した。 「俺は、やってみてもいいと思うけどなぁ。武道館もあるんだろ?」 「何事も経験だよ。俺も一回、デカいとこで歌ってみたいし」  どうやら、爽汰と翔は肯定派らしい。 「武道館って、マジで!? でも要は前座ってことでしょ。どうせならメインがいいな」 「せやなぁ。他はまあいいとしても、武道館はちょっとなぁ〜。あそこは特別な場所やから」  秋都と彼方は条件による、といった感じだ。 「聖は、どう思う?」  翔が優しく問いかける。  聖はどちらでもいいと思っていたが、なんとなくみんなの話を聞いているうちに、断った方が良いような気がしていた。 「……っ」  答えようと口を動かす。だが、息が漏れるだけで言葉にならない。 「え……ひーさん、声」  異変にいち早く気付いた秋都が、立ち上がって聖に駆け寄る。  聖は喉を両手で包み込むようにすると、もう一度話そうと試みた。  だが、ヒュー、と、か細い音が鳴るばかりで発声ができない。 「聖……」  愕然とした様子の透は、聖の顔を凝視したまま動かなかった。

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