62 / 74
番外編 sota 第4話
聖がふたたび声を失った時、爽汰はどうしたら良いのかわからず、ただただあたふたと慌てふためいていた。
医学的な知識があるわけでもなし、実際に出来ることなどほとんどなかったのだが、それでも爽汰は聖のためになにかしてあげたかった。
彼のために曲を創ろう、と思いついたのは、ほんの偶然だった。そして、我ながら冴えていると爽汰は自画自賛する。
だが、いざメロディを考えようとなると意外と難しかった。
透などは、ふんふんと鼻歌を口ずさみながら簡単そうに作曲している風なのだが、あんなのはよほどの才能がない限り無理な話なのだ。
作曲は西村に頼んで、詞だけでも書いてみようか。
自分のせいで聖が――と落ち込んでいる透を奮起させるためにも、それは良い考えのように思える。
爽汰は早速、彼に連絡を取ろうとした。
だが、電話をかけても留守番サービスに切り替わってしまうわ、メールは一向に返信が来ないわで、全くなしのつぶてだった。
これは相当参ってるな……。
無理もないとは思いつつ、爽汰はなんとかこの閉塞した状態を打破したいと思った。
とりあえずアコギを持ち出して、知っているコードをかき鳴らしてみる。
ついでに歌詞も付けてみようと思ったが、口から飛び出したのは「俺の男になれ〜」という謎のセリフだけだった。
*****
翔から「聖を送っていくのに付き合わないか」と誘われて、爽汰は珍しく当日の朝に欠勤の連絡をした。
電話に出た同僚に病院に行くと告げ、本当だから良いだろうと自分を納得させる。
既に上司に退社の意思は伝えてあり、引き継ぎも進めているのでそこまで業務に支障が出るわけではなかった。
そのことに一抹の寂しさを感じつつ、これも夢を叶えるためだと思い直す。
迎えに来てくれた翔が黒髪になっているのを見て、爽汰は驚いた。
しかし元がいいので、どんな髪型でも似合うのはすごい、と感心する。
車に乗りこんでしばらく走ると、翔はなぜか彼方の家に寄った。その次には秋都を拾い、今度は透のところに向かう。
「みんなで聖を迎えに行くわけ?」
爽汰は、当然その後にメンバー全員で聖の自宅に行くものだと思った。だが、翔は意味ありげに笑うばかりだ。
透の住んでいるマンションから聖が出てくる段になって、爽汰はようやく全てを理解した。
気付けばあのふたりはとっくに元鞘におさまっていたわけで、爽汰は散々気を揉んだ自分がなんだかバカバカしくなってしまう。
「あーあ、結局、ひーさんはトールとくっついちゃったのかあ」
「いや、まだわからんで? 意外とすぐ別れるかもしれんやん」
ふたりが窓の外をのぞきながら話しているのを、爽汰は不思議な気持ちで聞いていた。
あいつらは、きっと仲違いしても知らないうちにすぐよりを戻して……喧嘩するたびに、絆を深めていくんじゃないかな。
そして、自分はきっとそれを羨みながらも微笑ましく見守るのだろう。
新曲のテーマはこれだな、と思いながら、爽汰は外に身を乗り出すと、ふたりに向かっておおきく手を振った。
ともだちにシェアしよう!