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番外編 toru 第3話
浴槽にお湯が溜まるのを待つ間、リビングのソファに座った透は、自身の両脚の上に聖を乗せて後ろから抱きしめていた。
真っ白なうなじに口付けると、ばしばしと足を拳で叩いて抗議される。
腰をしっかりホールドして逃げられないようにしているので、透はめげずに今度は赤く染まった耳を甘噛みした。
身をよじって嫌がる素振りをする聖だが、本気なら簡単に抜け出せることはお互いにわかっている。
そんな甘い駆け引きをして戯れながら、透はこのあとどうしようか、と真剣に悩んでいた。
情けない話ではあるが、ここ数年バンドにかかりきりで女っ気のなかった透は、いざこういう場面になると必要なはずの物をなにひとつ所持していなかった。
しかも聖が突然訪ねてきた結果のこの状況なので、事前に用意できるはずもない。
お湯が沸きました、と給湯器がアナウンスするのを聞いて、聖がうしろを振り向く。
その愛らしいくちびるに軽く触れるだけのキスをして、透は腕の拘束を解いた。
立ち上がった聖の姿を改めて眺めて、透はまた身体の奥に火がついてしまいそうな気分になる。
結局、彼は恥ずかしがった挙げ句に、今度は最初に貸したスウェットの上下をきっちりと着込んでいた。だが、あきらかにサイズが大きいので、いわゆる萌え袖の状態になってしまっている。
「下になにも穿いてないのも良かったけど、これはこれで脱がし甲斐があっていいかもなぁ」
見上げながらそんなことをつぶやくと、両側から頬を強く引っ張られた。
*****
浴室の電気を点けようとしない聖を「危ないから」となんとか説き伏せて、ようやくふたりは中に入ることができた。
明るい照明の下で見る彼の裸体は、完全に目の毒だ。
それでもなんとか椅子に座らせてシャワーをかけてやり、泡立てたボディソープで身体を撫でる。
おとなしくしているのをいいことに、わざと胸だけ集中的に洗ってみた。
「んー」
おもわず、といった感じで発せられる可愛らしい声に、つい顔がニヤけてしまう。
本人ももう声が出ていることを気付いているようだったが、今度は逆に喘ぎ声が漏れないように堪えているように感じられた。
「どうしたの? フツーに洗ってるだけでしょ」
そんなわけがないことは言っている透自身が一番わかっているのだが、それでも聖は顔を真っ赤にしながらもじっとしていてくれる。
調子に乗って、透は彼をその場に立たせると泡まみれの手のままで身体の線をなぞった。
甘い吐息を聞きながら艶っぽいラインを描いているふくらみに触れると、聖の身体が跳ねた。
わざとゆっくり、くるくると円を作るように手を動かす。振り向いた彼の表情があまりにも切なげで、透はそのくちびるをそっと塞いだ。
どこかで歯止めをかけなくては、と思うのだが、目の前の姿態がどんどん透の行動をエスカレートさせていく。
固く閉ざされた部分に指を這わせる段になって、聖はようやく逃れるようにその身体を離した。
とはいえ、そんなに広くはない場所なので限度がある。
大きな瞳がうるうると訴えかけてくるせいで、透は動きを止めざるを得ない状態になってしまった。
さすがにこれ以上は無理かな、と判断して、ふたたびお湯を出すと彼の身体の泡を流してやる。
先に湯船に入るよう促して、手早く自分の身体を洗った。
「俺、上がって着替えとか用意してくるから、聖はゆっくりしてていいよ」
その言葉に、聖は不安そうな顔で透を見上げた。飛び込んで抱きしめたい誘惑を振り切って、なんとかその場を離れる。
身支度を済ませると、透はそのへんにあったスコアの裏に「買い物、すぐ戻る」と書き残して、慌てて家を飛び出した。
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