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番外編 toru 第5話
一度湧き上がった嫉妬心は、思いのほか透を苛んだ。
背中に感じるぬくもりは確かに愛おしい。
だが、別の男に触れられたことがあるのかもしれない、と考えてしまうと、嫌なイメージが頭から離れなくなった。
そんな思いを振り切るようにバイクのスピードを上げる。
ぎゅっ、としがみついてくる腕だけを意識して、透はなんとか理性を保とうと努力した。
*****
総合病院というものはどうしてこんなに待ち時間が長いのだろう、と半ばうんざりしながら、透は目の前の電光掲示板を睨みつける。
予約していない上に初診のため、先程から二時間くらいは椅子に座っている計算になっていた。
場所が場所なので騒ぐわけにもいかず、他のメンバーは黙ったままなぜかババ抜きで遊んでいる。
予想通り爽汰が一番負けが込んでいるらしく、札を引いては無言で大袈裟なリアクションをしていた。
一方、他の四人はアイコンタクトで結託している様子で、時々笑い合っては次々とカードを減らしている。
ようやく番号が表示され、聖が診察室に向かう。その背中を見送って、透はちいさくため息をついた。
「お前ら、うまくいったんだろ? なんでそんな浮かない顔してんだよ」
気付くと、翔が隣に移動してきていた。
「いや……なんかさ、聖って妙に色気あるじゃん。あれってずっと天然だと思ってたんだけど」
「なんやそれ、ノロケ?」
いつの間にか翔の反対側にいた彼方が呆れた顔でつぶやく。
「ふと、誰かの影響なのかな、とか考えちゃって」
「オトコの永遠の悩みだねぇ」
今度は正面に座った秋都が笑った。
「ま、言い出したらキリないのはわかってるんだけどさ」
そうは言いつつも、透はどうしても気分が晴れないでいる。
「そこは、オレ色に染めたろくらいに思っといたらええやん」
「そうそう。過去は振り返らないで生きていかなきゃ〜」
なんだか妙な励まされ方をして、透は苦笑した。
だが、翔だけが険しい顔をして黙り込んでいる。
「いずれわかることだから言っとくけど……聖がいま住んでるマンション、松浪くんの名義らしいんだ」
「は? なにそれ」
なぜか爽汰が素っ頓狂な声を上げ、全員から睨まれる。
「爺、ウルサイよ……でも、ひーさんって一人暮らしなんでしょ?」
秋都の言葉に、全員が黙り込んだ。よくよく考えると、誰も彼の自宅には入ったことがないのだ。
「俺も、建物の前までしか送ってないからなぁ。ひょっとしたら家族の誰かと住んでるのかもしれないけど」
翔はそう言ったが、佳祐の名前で契約している物件である以上は、不自然な話である。
「そんなの、本人に聞けばいいんだよ。ふたりとももう付き合ってるんだから」
爽汰はさも当たり前のように言っているが、物事がそんなに簡単にいくなら誰も苦労はしないのだ。
「それはデリカシーがなさすぎやわ。いくら親しくても、踏み込んだらあかん領域ってもんがあるねん」
彼方の言い分ももっともだが、聖が過去に佳祐と繋がりがあったことは周知の事実だ。
透は、一体どうするのが良いのか全くわからなくなっていた。
「これでもしあのふたりが昔付き合ってたとかだったら、ビックリだけどなー」
ハハハ、と笑う爽汰の声は、待合室のざわめきにかき消される。
周囲が妙な雰囲気なのを察して振り向くと、診察を終えた聖がこちらに歩み寄ってくるのが見えた。
待っている間は隅のほうで静かにしていたから目立たなかったのが、どうやら急に注目されてしまったらしい。
よく見ると、自分たちもちらちらと視線を送られている。かろうじて耳に届く声が「芸能人なの?」などと囁き合っていた。
透たちは急いで立ち上がると、近付いてきた聖を促して会計に向かった。
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