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番外編 toru 第7話

 やっと自分の部屋に戻って、透は心底ほっとしていた。  いくらなにもなかったとはいえ、あのマンションで聖と佳祐が一緒に暮らしていたことには変わりないのだ。さすがに落ち着かない気分は最後まで抜けなかった。  コンビニで適当に買ったもので食事を済ませ、出てくる前に洗っておいた浴槽に湯を張る。  さすがに今度は一緒に入るのが躊躇われて、透は先に聖を送り出した。  急に心臓の鼓動が早くなったのを感じて、透はひとり苦笑する。  今夜こそ、なんて考えながらこうして恋人を待つ日が来るとは思わなかったからだ。  またずいぶんと長いな、と思い始めた頃、ようやく聖が戻ってきた。  今日は持参した服を着ているはずだったが、予想に反して彼はジャージ姿だった。 「結構、寝る時もカジュアルな感じなんだ」  普段着を見ていたらわかりそうなものなのだが、なんとなく可愛らしい柄のパジャマなど着てくるのかな、などと勝手に思っていた。  タオルを頭にかけたまま「お先でした」と言う姿は、まるで新婚の妻のようである。  黙って見守っていると、今度は優しく髪を拭い始めた。先日、透が注意したことを忠実に守っているのだ。  思わず笑みがこぼれ、ふと、彼方の「オレ色に染める」というセリフを思い出す。  こうやって、だんだんと共有することが増えていくんだろうな。  バスルームに向かいながら、透はすこし照れくさい、だけれども幸せな気分を噛みしめた。 *****  触れ合った肌からお互いの熱を感じ、更にボルテージが上がっていく様は、まるでステージ上のようだ、と透は思った。  やわらかなラインをなぞるたびに聖が奏でる、か細い旋律。  とてつもなく甘やかなのに切な気なその声は、透を魅了してやまない。  まだ誰も侵したことのない領域にそっと触れると、聖は不安そうな顔で透を見た。 「出来る限り、痛くないようにするつもりだから……」  安心させたい一心で囁いて、軽くくちづける。だが、彼の身体はガチガチに固まってしまっていた。  あやすように背中を撫ぜ、脚を絡める。意識を他に向けさせようと、聖の昂りをわざと刺激した。  びくびくと反応する身体を抱きしめ、ふたたび後ろに手を伸ばす。  潤滑剤でじゅうぶんに滑りを良くした指を差し入れると、耳元で可愛らしい声が啼いた。 「聖、大丈夫……?」  問いながら、指をもう一本増やしてみる。先程から前も刺激しているせいか、思ったより痛そうな素振りではなかった。 「あ、の」  荒い息の隙間で、おずおずとした声に呼びかけられる。 「おれは、へーきだから……その、もう……」  だんだんと語尾がちいさくなっていき、とうとう最後は聞き取れなくなってしまった。  だが、そのことが逆に透の欲望に火をつける。 「そんなカワイイこと言われたら、俺もう止まらないよ?」  言いながら、彼の中に埋めた指の動きをすこしずつ速めていく。   「とめなくて、いい……」  紅く染まった目尻に涙を溜めながら囁かれて、透の理性は崩壊した。  ぎこちなく侵入した聖の中は、すこしの隙間もなくぎちぎちに自身を熱く包み込み、透に信じられないくらいの快感をもたらした。  眉根を寄せて耐えている表情は、優しくしなければ、という思い以上に嗜虐心を煽る。  ゆっくりと腰を動かすと、きつく閉じられていたくちびるから吐息が漏れた。  すこしでも痛みを軽減できるように、と熱くなっている彼自身に手を添えると、透のほうにも刺激が返ってくる。 「痛く、ない?」  それでも心配になって尋ねると、やわらかくくちびるを塞がれた。  徐々に激しくなっていく律動と、比例するようにどんどん甘く妖艶に響く声。  お互いに終わりが近いことを予感しながら、狂ったようにキスをして唾液を絡め合った。  顎を伝う雫を舌で舐め取り、縋るように送られる視線を正面から受け止める。 「いっしょ、に……」  呟かれた台詞に愛しさがこみ上げてきて、透はわざとゆっくり、奥まで自身を突き上げた。 「俺、もう、」  透の訴えにこくりとうなずいた聖は、首に腕を巻きつけて顔を寄せてくる。  どちらからともなく深くくちづけながら、透は動きを激しくした。 「あ、っとーる、だいすき……っ」 「聖、好きだっ……」  同じタイミングで愛の言葉を伝えながら、ふたりはお互いの意識が溶け合っていくのを感じていた。

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