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番外編 sho 第1話

 明日の朝は自分のマンションまで聖を迎えに来て欲しい、と透からメールが届いた時、翔はすこしだけ泣いた。  後押ししたのは自分のはずなのに、胸がずきずきと軋むように痛い。  ふと思い立って、地元から上京してきた友達に連絡を取った。  聖が透のことを想っているらしいことは、なんとなく気付いていた。  それでも、まだ自分にもチャンスはあると翔は考えていたのだ。  敗北を悟ったのは、彼の声が出なくなった時だった。  そのあと、透に説教くさい長文を送りつけたことは後悔していない。  ただ、今後も似たような事態になればバンドのパフォーマンスに影響が出るかもしれない、という心配はあった。  透の態度ひとつであれだけボロボロになるまで自分を責めてしまう聖を、なんとしてでも護ってやらなければ、と思う。  あの時、宣言した気持ち――透が彼を泣かすようなら攫っていくという――は、いまも変わっていない。 *****  新事務所との初仕事は、全国五都市をまわるツアーに決定した。しかも全箇所ホールで、最終日は武道館という破格の扱いだ。  とりあえず場所は押さえたので、これから演出などのプランを考えていくことになる。  アルバムリリース後のライブハウスツアーは既にリハに入っているので、それとは別に一からコンセプトを練らなくてはならなかった。 「やっぱ、新曲はあった方が良いよな」 「せやなぁ。セトリが今回と一緒ではカッコつかんし」 「あ、じゃあ、例の爺のやつをライブ用にアレンジしたら? なんだっけ、あの」 「俺の男になれ〜」  翔のハスキーボイスがスタジオに響き渡り、爆笑の渦になる。 「それはあくまで仮歌だから!」 「あたりまえでしょ」  涙を拭いながら笑い転げている聖を見て、翔はある考えが頭に浮かぶ。 「あのさ、ひとつアイデアがあるんだけど」  前置きして話しだしたのは、ホールツアー向けのコンセプトについてだ。 「姫を護る騎士団、ねぇ」  ひととおり話を聞いた透は、いまいちピンとこないようだった。 「メルヘンチックな感じだけど、新しいアルバムの曲調には案外合うかもよ」 「バックにストリングスとか入れたら面白いんちゃう?」 「おぉ、なんかプロっぽいな!」 「いやもうプロでしょ」  わいわいと話しながら、なんとなく方向性を固めていく。  この瞬間が、翔は好きだった。バンドをやっていて良かったと心から実感できる。 「でも、お姫様の役はどうするの? オーディションとか?」  ぽつりとつぶやかれた聖の声に、彼以外の全員がぽかんとした顔で固まった。 「いやいやいやいやいや、どう考えてもひーさんしかいないっしょ」 「そうだよ~、オレひーさんのおひめさま見たい!」 「え、今のボケたんやないの?」  騒がしい面々の隣で、透は黙って聖のことを見守っていた。その穏やかな表情に、翔はなぜか胸が痛む。 「初のホールがコンセプトツアーとか、ずいぶんとハードル上げるよなぁ」  透は渋った態度を取っているが、こういう困難な課題を出されると燃えるタイプなのは翔が一番良く知っている。 「企画書作ったら、本田さんのとこ衣装の相談に行くからさ。根岸くん頼んだよ」 「おう。元トップセールスの敏腕営業マンに任せとけ」  爽汰は最近鍛え始めた腕を上げて力こぶを見せつけ、くしゃっと笑った。

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