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番外編 sho 第3話
都内のダンススタジオでは、軽快な音楽に合わせて翔が振り付けの確認をしていた。
バイトを辞めるにあたり職場で送別会を開いてもらうことになり、ソロでダンスを披露することにしたのだ。
インストラクターという立場で数年やってきたが、人前でガチで踊るのは久々だった。
もともと素質があったのか、歌を辞めてダンスに転向してからは、あれよあれよという間に上達し、気付けば仕事にできるまでになった。
しかも今度は、一度は諦めたはずの歌で食べていけるようになるのだ。
なんだかんだ、恵まれてるよなぁ。
小休止しながら、ぼんやりとそんなことを考える。
翔が今のバンドに参加したきっかけは、たまたま参加したダンススクールの合宿だった。
余興のカラオケで担当講師が翔の歌声を気に入り、動画サイトにアップしたことが彼のその後の人生を決めたのだ。
思いのほか視聴者数を獲得したその動画を偶然観た透が、コメントを通じて一緒にバンドをやらないかと誘ってきた。
今になって思えば、あんな胡散臭い勧誘になぜ応じたのか自分でも謎だ。
でも、あの時のトールはホント必死だったもんなぁ。
かなりしつこく絡まれて、それでも繋がりを切らなかったのは、やはりどこかでまた歌いたいという気持ちがあったのだろう。
最初にセッションした時の感動は、いまでも忘れられない。
そして、聖との運命の出逢い。
ひょっとしたら、運命だと感じたのは自分の勘違いだったのかもしれない。
それでも、彼を好きになったことは後悔したくなかった。
それよりも、いまは集中しないと。
気の緩みは怪我にも繋がりかねない。
翔は余計な思考を振り払うようにスポーツドリンクを一気に飲み干すと、ふたたび練習に戻った。
*****
無事に送別会を終え、翔は心地良い疲労に包まれながら家路についていた。
ふと近くに聖のバイト先があることを思い出し、なんとなく足を向ける。
いまの高揚した気分のまま、まっすぐ家に帰るのはもったいない気がしたのだ。
しかし、当たり前だが店は既に閉まっていた。
下ろされたシャッターを眺めながら、翔は思わず苦笑いする。
もう自分は、想い人に逢いたい、と思っても気軽に叶えられる立場ではないのだ。
「あれ、翔?」
背後からかけられた声に慌てて振り向く。
「聖……」
彼は翔の顔を確認して、にっこりと笑った。
街灯に照らされたその姿に、まだ諦めきれないでいる気持ちを再確認してしまう。
「どうしたの。珍しいね、こんなとこで会うなんて」
「あ、いや、今日、職場の送別会でさ。たまたま、会場が近くだったから」
なんだか言い訳がましく説明しながら、一歩だけ彼に近付く。
「そっか。おれは来週なんだ。渋谷のライブハウスで」
「へえ、いかにも楽器店っぽいな」
そんなことを話したいわけじゃないのに、と頭の片隅で思いながら、ぽつぽつと意味のない世間話をする。
翔は既に、のこのことこんなところまで来てしまったことを後悔し始めていた。
「聖はいま帰りか……あ、トールが迎えに来るんだろ?」
わざわざ恋人の名前を出してしまうあたり、我ながら情けないとは思う。
こんな未練を断ち切るためにも、さっさとふたりで自分の前から姿を消してほしいなどと考えてしまった。
しかし、意に反して聖はちいさく首を横に振る。
嬉しさを隠しきれない翔は、更に数歩彼に近付いた。
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