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5-1
いつの間にか、テーブルにティーカップが用意されていた。
ほんの数秒まで、我の顔を覗いていたシイガは椅子を引き、腰を下ろす。
「何だ…」
「今日、天界が所有する境地に足を踏んだんだ」
「…」
「サキエルと、ムリエルに阻まれた」
それは、また、強行な手段に出たな。
普通は阻むだろう。
我等だって境地に足を踏み入れられたら、阻むじゃないか。サキエルとムリエルの行動は一般的に当たり前。
その前に…。
「ソナタが、天界の所有する境地に足を踏むなんて何の気まぐれだ…」
我が聞くと、シイガはティーポットからティーカップに紅茶を注ぎ込む。
「実は、今日はもう一人居た。サキエルとムリエルの他に」
「ほぉ…」
「だから、ソナタの所に来たのだが」
注がれた紅茶が入ったティーカップを目の前に置く。
シイガが、そうまでして、我に聞きたい事なんて、指で数えても少ないのを思い出す。
大天使の事を聞いて、どうするかは解るが、いたぶりたいなら、情報は、必要ないだろうと推測した。
思い当たるとすれば、数々あるが…。
『ゼウダ-様…』
ー…ちっ。
厄介な残像が、我を取り囲む。
今更、過去の中に残る女の残り香だけが、生き残って、昔を思い出させるとは。
ソナタも…。
頑固だな。
子孫を残し、男児を生んだ事は、有り難いが。
それ以上の役目なんて存在したかは不明だ。
『今宵は、抱く気にはならない』
『…っ』
『自分の匂いには、気を付けた方が良い』
魔族は、鼻が良い…。
犬並みの嗅覚をしていると、本に書かれてあった。
自分以外の匂いが付いた女を、抱きたいと思うとしたら、答えはノーだ。
それを、自覚しているなら、尚更、質が悪い。
まぁ…。
賢い女じゃなかったかは、結婚生活に隠されている。
仮面夫婦なら、響きが良い方か。我達は、無法地帯みたいな関係だった。
愛など、存在しない。
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