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いつの間にか、テーブルにティーカップが用意されていた。 ほんの数秒まで、我の顔を覗いていたシイガは椅子を引き、腰を下ろす。 「何だ…」 「今日、天界が所有する境地に足を踏んだんだ」 「…」 「サキエルと、ムリエルに阻まれた」 それは、また、強行な手段に出たな。 普通は阻むだろう。 我等だって境地に足を踏み入れられたら、阻むじゃないか。サキエルとムリエルの行動は一般的に当たり前。 その前に…。 「ソナタが、天界の所有する境地に足を踏むなんて何の気まぐれだ…」 我が聞くと、シイガはティーポットからティーカップに紅茶を注ぎ込む。 「実は、今日はもう一人居た。サキエルとムリエルの他に」 「ほぉ…」 「だから、ソナタの所に来たのだが」 注がれた紅茶が入ったティーカップを目の前に置く。 シイガが、そうまでして、我に聞きたい事なんて、指で数えても少ないのを思い出す。 大天使の事を聞いて、どうするかは解るが、いたぶりたいなら、情報は、必要ないだろうと推測した。 思い当たるとすれば、数々あるが…。 『ゼウダ-様…』 ー…ちっ。 厄介な残像が、我を取り囲む。 今更、過去の中に残る女の残り香だけが、生き残って、昔を思い出させるとは。 ソナタも…。 頑固だな。 子孫を残し、男児を生んだ事は、有り難いが。 それ以上の役目なんて存在したかは不明だ。 『今宵は、抱く気にはならない』 『…っ』 『自分の匂いには、気を付けた方が良い』 魔族は、鼻が良い…。 犬並みの嗅覚をしていると、本に書かれてあった。 自分以外の匂いが付いた女を、抱きたいと思うとしたら、答えはノーだ。 それを、自覚しているなら、尚更、質が悪い。 まぁ…。 賢い女じゃなかったかは、結婚生活に隠されている。 仮面夫婦なら、響きが良い方か。我達は、無法地帯みたいな関係だった。 愛など、存在しない。

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