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6ー8
白薔薇を一つ摘み、テラスへと歩いていく。クリーム色のテーブルに置かれてある花瓶に挿すと、椅子に腰を下ろした。
タイミング良く地面に雨の雫が落ちる。
雨は激しく、音を立てていく。
「…また、雨」
ここのところ晴れていた天気が一転する事が多くなった。
止んだと思えば、再び曇り、雨へと変わる。憂鬱な気分が余計に大きくなるのをウリエルは薄々感じていた。
忘れないと…。
あの時の出来事は全て。
頭にそいゆう言葉を浮かべる度に、体内から熱が帯びてくる。
―…忘れるな。
「…っ」
耳に聞こえた声音。
ウリエルは花瓶に挿してあった白薔薇を見つめた。
淡く、ゆらゆらと燃える。
白薔薇から青白い炎が立ち昇っている。
思わず、はっとしてしまう。
こんな事が、起こるのは、初めてで、内心、焦ってしまいそうになる。魔界帝国の侯爵にもなれば、朝飯前だが、ウリエルは、思惟した。
『何故、こんなタイミングなのだろうか』という言葉が、出そうになる。
あれは、魔族の気紛れじゃないのだろうか。
そう、思わせてくれた方が、有り難い。
所詮は、七大天使と魔界帝国の侯爵という溝がある。
お互いに、傷付かない最善な方法は、単なる遊びだったと、片付けてくれた方が安全。
『そうもいかないんじゃないかしら。ウリエル』
小さな声音で、囁いた女性は、彼を見た。
悩んでいると思ったら、案の定だったからだ。
『心の休養は、必要かも知れないわね』
よく、考え、悩んで、結果を導いて欲しい。
覗き見しているなんてバレたら、後が恐ろしいが、主として、部下が心配だ。
しかし、忘れたくても相手は忘れさせてくれない。寧ろ、もっと、仕組んでくるだろう。
彼の心を手に入れたくって、餌を使うかも知れない。
ウリエルの弱点は、弟。
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