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第35話 BURN OUT③~鬼畜ブラザーズ登場~※

 3月に入っても、椿は、ナンバー1の座をキープしていた。  同室のミキも、『ザーメン搾り隊』で不動の人気を誇り、その小さな身で、男たちのザーメンを飲み続けていた。  相変わらず、鬼畜なショーは繰り返され、このまま春になるかと思われたころ。  紳士クラブ内で、大きな事件が起きた。  最下位に属する『人間灰皿』の少年たちがふたり、立て続けに死んだのだ。  ……麻袋に包まれた死体がふたつ、エレベーターに載せられ4階に運ばれる。  SMグッズの置かれた物置部屋の片隅に乱暴に放り出されたそれらはやがて、こっそり運びだされ、ドラム缶にコンクリート詰めにされ夜の海に捨てられる。  そうして、少しずつ処分されていく少年たちがいることを、奴隷たちは知っていた。  『人間灰皿』に欠員が出たことで、『蝋燭スタンド』の下位ふたりがその役割に降格し――その子たちが大泣きしながら部屋を移っていったことも――   「……つーちゃん」  奴隷たちが死んだ次の日。  真っ赤に泣き腫らした目のミキは、ベッドにいた椿にぎゅっと抱きつき、 「ぼくたちはぜったい、死なない」  そう力強い声でいった。   「ぜったい――絶対に死なない。どんなことがあっても生き抜いて――ここを出る。そしていつか、誰かと燃えるような恋をするの。そうでしょ?」 「…………」 「だからどんなひどいことされてもガマンして――死なないでいよう、ね?」  しがみついてきたミキの背中をそっと抱き寄せながら、そんなことができるのだろうかと椿は考えていた。  だけどもし、ここから出られたら――もういちどだけ、銀に会って話をしたい。  あのエメラルドグリーンの瞳を飽くまで見つめて、あの日の「……すまない」の理由(わけ)を知りたい。  そんな夢みたいな日が――この先ほんとうにやって来るんだろうか……?          ※※※ 「……草薙さん!」  ――東京で桜が満開になった3月下旬。    草薙(くさなぎ)の部下の鳴門(なると)刑事が、息せききって捜査一課に駆け込んできた。 「三浦椿が発見されましたよ!」 「えっ……?」  昼食のカップラーメンを啜っていた草薙は、ガタンッと椅子から立ち上がった。 「……ほんとうか?」 「はい。さきほど新宿署から連絡がありました。昨晩の会員制クラブの火事で焼け出された少年たちのなかにいたそうです」 「……容態は? あの火事はかなりの死者が出ただろう」 「出口近くの部屋にいたようで、軽い打撲程度で済んだようです。だいぶショックを受けてはいるとのことですが――」 「……そうか――」  ――半年近く行方知らずだった三浦椿がようやく発見された。  こみ上げてくる興奮に、草薙はぎゅっと手を握りしめた。  これで少しでも、事件の真相に近づくことができたら…………    ……そののち、火事のあった会員制クラブは、少年たちを性の食い物にするSMクラブであったことがわかった。  火元は3階。  スタッフがうっかり落としていったライターを拾った性奴隷の少年たちが結束し、丸めたシーツに火を点けたのが火事の原因だった。  彼らは、自分たちのおむつの紙を少しずつ剥ぎ、部屋の隅に隠すなどして、燃えやすいものをひそかに集めていた。ほぼ炭と化した遺体は、寄り添うように固まっていた。  火災報知器の故障が放置されたままだったビルは、サイレンが鳴らず、あっというまに火の手が回った。  3階の少年たちは全員死亡、2階の少年たちも重傷を負い、軽傷で済んだのは、1階にいた少年たちとスタッフふたりだけだった。  少年たちの多くは、家出少年か、家族に縁を切られた子だったため、退院後、そのほとんどが施設へ入った。  まだ16歳だったミキも、郊外の児童養護施設への入所が決まった。  ミキがずっと待っていた彼氏――ミキをクラブに売った男――は、けっきょく迎えに来なかった。  紳士クラブのあったビルは取り壊され、あとかたもなく消え去り、事件は風化した。  そして椿は――――――          ※※※※※  ――4か月後。  梅雨明け夏本番、7月の陽射しがジリジリと照り付ける緑の芝生が鮮やかな庭先のテラス。  ガラス張りの半円形のサンルームをぐるっと取り囲むウッドデッキに、椿は裸で放り出されていた。    首に嵌められた太い鋲のついた首輪。  乳首をネジで強く締め上げたニップルクリックから伸びたワイヤーは、頭の後ろで組まされた両手首の手枷に連結されている。  チンポに刺さった、前立腺まで届くほど長い電動ブジ―。  タマ袋とチンポの根もとをまとめて括った縄の先には、ソフトボール大の鉄球がぶら下げられている。    手を頭の後ろで組み、大きく股をひらいてしゃがみこんだアヒルのような不格好な体勢でひょこひょこ歩く椿。  全身からしたたる汗。  がくっ、がくっ、と腕が落ちそうになるたび、ニップルリングの穴からぶら下がった3連の鈴が、チリチリと鳴る。  あまりの疲労に太腿がカクカク揺れ、床すれすれまで垂れた鉄球が、ゴトッ、と落ちる。 (……ぐっ……!)  おもわず脚が止まったそのとき、突き抜けるような電流の痛みがブジ―に走った。 「……アッ!? ……! アァッ――――ッ……!」 「おい、さぼってんじゃねぇぞ、! 罰としてもう10周追加だ!」  サンルームの中から飛んでくる罵声。 「……うっ……うぅっ――は……い……」  ――もう1時間くらい歩かされているため、喉もカラカラで、かすれた声しか出ない。 「ちゃんと返事しろ!」  強い電流をリモコンでまた流され、 「アッ! ウッ……ウグググゥッッ――――ッ……! ……はっ……はいっ……! ケッ……ケツマンコ奴隷カメッ……! もっ、もう10周ッ……いかせていただきますっ……!」  焼け付くような痛みに痺れるチンポをブルブル揺らしながら、けんめいに泣き叫ぶ。 「ははっ、ひっでぇなぁ。このクソ暑いなか、いつまでやらせるつもりだよ?」  サンルームのなかにいたもうひとりが、ブジ―のリモコンを手にした男に聞く。 「さぁな。考えてねぇよ」  リモコンをソファに放り投げ腰を下ろした男は、スマホを手にする。  明るい陽光の降り注ぐサンルームには、軽快なポップミュージックが流れていた。  涼しすぎるほどの空調のなか、ふたりの男が、L字に設置された革張りの白いソファで、めいめい好きなことをしている。  彼らは、椿の4歳年上の双子の従弟――三浦 統(みうら すばる)三浦 司(みうら つかさ)だった。  外見がそっくりな一卵性双生児のふたりは、昨年からイギリスの同じ大学に留学していた。  現在は、大学が夏休みのため、帰国してきている。  ふたりとも、身長180センチを超える、目尻が切れ上がったスッキリした顔のイケメンだ。 「……ん、あいつ、ケツに何入れてんの?」  金色に染めた長髪をハーフアップで結わいた兄の統が、弟の司に聞く。  黒髪のテクノカットの司は、 「ああ、あれ? ソーセージ」  スマホに目を落としたまま答える。 「ドイツかイタリアのでっかいヤツでさ、ネットで見つけて面白そうだから買ったんだ。今日のカメのランチだよ」  ……大股びらきの尻のあいだからぶら下がった、直径6センチはありそうな、ぶっといソーセージ。   「へっ。まるでクソぶら下げてるみたいだな」 「だろ? うんこプラプラさせながら歩いてるみたいで傑作なんだよ」 「あとで撮影しようぜ。動画にあのカット入れたら面白いだろ」 「そうだな。このあとホンモノのクソも漏らしますぅ~ってカメにいわせるか」  はははっ……と兄弟が楽しそうに笑いあうサンルームの外で――  照りつける正午の陽射しの下、尻穴にソーセージ、チンポに鉄球をぶら下げられ、乳首をひっぱりあげるチェーンにつながった両手を頭の後ろで組まされた椿は、憐れなアヒル歩きを続けていた。 (……あ……あと7周……)  ぴょこぴょこと不自由な姿勢をとらされ続けた脚はもうほとんど、感覚がない。  カラカラに乾いた喉は一滴の唾液すら出ず、頭がガンガンと痛む。  どうしてこんなことをさせられるのかわからぬまま――兄弟たちが帰国してから毎日、理不尽なしごきを強いられている。  久しぶりだから(いじ)めのネタがつきねぇな、と(わら)う兄弟の横でふるえながら、尻穴にバイブを何本も突っ込まれたり、乳首にいろんなものを手あたり次第ぶら下げられたり、浣腸されたまま数時間放置されたりした。  けっきょく、あのクラブから脱出できたところで、なにも変わらなかった。  むしろもっとひどい仕打ちを、椿は、鬼畜兄弟から受けていた。  

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