43 / 56

第43話 見えない景色 ※

 草薙が再びやって来たのは、その数日後だった。  家の前で、椿が学校から帰ってくるのをずっと待っていた草薙は、椿の手に小さなメモ用紙をぎゅっと握らせた。 「――ここに、ぼくの電話番号が書いてある」  周囲を用心深く見回し、 「メールでもいい。なんでもいいから――SOSが必要になったら、連絡してほしい。手遅れになる前に、どうしても君を助けてあげたいんだ……」  腹の底から絞り出すような声でいう。  椿の瞳が、信じられぬように大きく見開く。  どうして――といいかけた椿に、   「……まだぼくが駆け出しだったころ、売春婦の少女を補導したことがあった。彼女は実の父親に売春を強いられていた。……話をするうち、彼女はぼくに心を開いてくれるようになった。  でもある日、ぼくは彼女を否定するようなことをいってしまい――それからほどなくして、彼女は路上で知り合ったゆきずりの男にホテルで殺された。……もしもあのとき、ぼくがもっと親身になってあげたら――彼女は死ぬこともなかったかもしれないんだ……」  誰にも話したことのない過去を打ち明けた。 「……ぼくは君をセックス依存症だなんて思っていない。むしろ、すべて君のせいにして君の美貌を利用しようとする大人たちのほうがおかしいんだ。  いまの状況がほんとうにつらいなら――君はことができる。高校を卒業したら――いや、18歳になったら君はもう成人だ。誰かの庇護の下に生きていく必要はない。君は自分の人生を、自分自身で決めることができるんだよ」 「…………」  いままで誰にも、そんなことをいわれたことはなかった。  一生肉便器。  ケツマンコ性奴隷。  そんなふうにずっとののしられながら生きていくのだと思っていた――。  自分の部屋に入った椿は、草薙の電話番号を必死に暗記した。  椿の持ち物はすべて、兄弟に管理されていた。  スマホも毎日見られ、誰かと連絡をとっていないか逐一チェックされる。  唯一覗かれないのは、頭の中だけ。  数字を覚えきった椿はもらったメモ用紙を粉々に千切り、洗面所の横にある、オムツ入れのオムツの中に入れテープをクルクル留めて捨てた。使用済みのオムツはとても臭いので、兄弟もあまり近づかない。これならきっと、大丈夫だ。  部屋に戻り、脱いだ制服をハンガーラックにかけ、裸になってリビングに向かう。  アナルプラグと貞操帯をつけたまま、犬用ゲージの中に入り、四つん這いになって兄弟の帰りを待つ。  しんとした室内。  勝手に冷房を入れることはゆるされていないため、蒸し風呂のような暑さに全身から汗が噴き出す。  リビングには監視カメラがあるので、ダラダラしているわけにはいかない。  もしもサボっているのがバレたら――仕置き部屋に吊るされ、鞭打たれる罰が待っている。  以前、あまりのつらさに逃亡しようとして、連れ戻され、飲まず食わずで3日間、吊るされたことがあった。  干物のように渇ききった身に点滴を打たれ、ギリギリのところで助かったが、一歩間違えば死ぬところだった。  そのときの恐怖がずっと頭から離れず――椿は、「逃げる」ことができずにいた。  1時間ほどして、兄弟は帰ってきた。 「うわっ! 暑ッ!」  もわんっ、と熱のこもったリビングとサンルームのエアコンのスイッチを入れた司は、買ってきた食べ物をソファにドサッと置く。  自分の部屋は本宅にあるのに、ほとんどの時間を別宅で椿を虐めることに費やしている。  夕食も専らこっちに運んで食べることが多い。 「よう、カメ。いい子にしてたか?」 「は……はい……」  汗まみれの頭皮から、ポトッ、ポトッ、と雨粒のようなしずくが垂れ落ちる。   「お……おがえりなさいまぜ――統さま……司さま――」   喉がカラカラで、かすれた声しか出ない。   「ひどい汗だな。相当喉乾いてるんじゃねぇの?」 「は……はい……」 「水、飲みたいか?」 「は……はい……すごく――の――飲みたい……です……どうがっ……飲ませてくだざひっ……!」  薄汚れた犬用の白いクッションに頭をこすりつける椿に、 「いいぞ。飲め」  統は許可を出す。 「あっ……ありがとうございます」  ケージの柵に取り付けられた、水飲み器のノズルに口を付け、生温くなった水をゴクゴク飲む。  四つん這いで上向き、手を使わず一心不乱に水を飲むその姿は、まさに犬奴隷だった。  水分補給のあと、貞操帯を外してもらい、ペットシートに小便をする。   「うっ……うぅっ……んッ……!」  両手を横に突き、シートを跨ぐ格好で腰を突き出し、シャーッとトレイのなかに尿を出す。  黄色く染まったアンモニア臭いシートを取り替えるのは、椿自身の仕事だった。  ケージから出て、兄弟の足もとに這いつくばり、「お……おしっこさせていただきありがとうございました……」と礼をいう。  司が、用意していた首輪を椿の首に嵌める。  きつく締め付けられ、ぐぇっ、と喉が鳴る。 「ケツを上げろ」  突き出した尻穴のプラグを外され、犬の尾を模したシリコン製のアナルプラグをねじ込まれる。    「ぐっ! ウゥッ……!」  XLサイズのカーブしたシリコンが、腹の奥深くまで潜り込んでいく。  乳首には、3連の鈴のついたクリップ。  チンポには、シリコン製のコックリング。  目と口の部分だけ出たレザーのアニマルマスクを被らされ、黒い立ち耳の犬のようになった顔。   首輪のリードを引かれ、 「よし、サンルームに行くぞ。そろそろ涼しくなってきたころだろ」 「は……はい……」  尻穴から黒い尾のシリコンをぶら下げ、よろよろと四つん這いで歩き出す。      ――サンルームに2つ並んで置かれた白いデッキチェア。  統と司は、その椅子に優雅に横たわり、キンキンに冷えた炭酸水を飲んでいた。  一面ガラス張りの大きな窓の向こう、オレンジ色の夕暮れの空が見える。 「……うっ……! うぅっ……!」  司のデッキチェアの下から聞こえる、苦しそうな呻き声。 「どうした。もっと奥までしっかり咥えろよ」  うつ伏せになった司が、スマホをスクロールしながら、声をかける。  デッキチェアの下では――床とチェアの隙間に挟まれた椿が、フゴフゴともがいていた。  このデッキチェアは、特殊な作りになっており、人間の頭ひとつぶんくらいの穴が真ん中に空いている。  SEX用に作らせたそのチェアの穴から差し込まれた司のペニスを、チェアの下でしゃぶらされていた椿は、 「フッ……フゴッ……!」  司の体重の重みと、押しつけられるタマ袋の圧に、窒息しそうになる。  涙と鼻水が、アニマルマスクの上にだらだらと垂れていく。 「よし。穴からケツ出せ」  ひととおりしゃぶらせて満足した司は、マスクの耳をぐいっと引っぱって命じる。 「は……はい……」  デッキチェアの下で返事した椿は、狭い空間でひっくり返り、穴から尻だけを出す。  壁尻のようにチェアから飛び出した大ぶりな尻。 「ははっ。まるでオナホだな」  鼻で笑った司は、犬のしっぽ型のプラグを引き抜き、投げ捨てる。  尻の真ん中でパクッ、パクッ、と収縮するアナル。  その穴に、飲み終えた炭酸水の瓶の口を突き立て、 「おまえの大好きなケツマンしてやるよ」  とねじ込む。 「……うっ……ごッ……!」  尻穴を出入りする透明な瓶に、椿はデッキチェアの下で悶える。 「すっげー夕日がきれいだなぁ……っておまえは見えないか」 「ぐっ……!」 「ははっ、抜くときすげーケツ襞くっついてくんな。せっかくだから奥まで全部入れてやるよ」 「アッ……! おッ……ほぉッ……!」  瓶底までねじ込まれたアナルが、ぱっくりと大きく開く。  透明なので、中の肉まで、クスコで抉じ開けたように丸見えだ。 「――おっ、これいいじゃん。すげぇケツマンコって感じ」  隣のチェアから身を乗り出し、尻穴を覗き込んだ統が、「落書きして写真撮ろうぜ」と提案する。  リビングから持ってきたマジックで、『ケツマンコ奴隷カメの日常』『ケツ穴拡張中!』と尻に書く。 「ははっ! クッソ無様」  その尻を、パシャパシャ撮影する統。 「今度は動画撮るからケツ振れ」 「は……はい……」 「もっしもしカメよ~ カメさんよ~♪」  司が歌う歌に合わせて、尻を大きく左右に振らされる。   「世界のうちでおまえほど~ あわれでみじめなケツマンコ〜奴隷は〜な~い♪」    あまりの情けなさに、椿はデッキチェアの下の狭い世界で、ボロボロと涙を流す。  ――美しい夕日も、高台から望む街の灯も、その目には何も映らなかった。      

ともだちにシェアしよう!