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第46話 暗転する蜜月※
草薙がM公園のトイレに駆けつけたときにはもう、人の姿はなかった。
「くそっ……!」
M公園という名の公園が、新宿に何個かあり、特定に時間がかかったのがいけなかった。
床に残っていた血痕と、清掃モップ。
個室トイレの床や壁にこびりついた大量の精液と、尿……。
「ひどいな……」
一緒に来た鳴門刑事は顔をしかめる。
「三浦椿はどこに消えたんでしょう」
「わからん。もしかしたら――誰かに連れ去られたのかもしれない」
草薙は、くしゃくしゃと頭をかき回し、
「この公園にはたしか、防犯カメラがあったな。警備会社に連絡してみよう」
といった。
カメラには、ぴったりとくっついて歩く三浦兄弟と椿の姿が映っていた。
それから数十分して、キョロキョロと用心深くあたりを見回しながら歩いていく男たちが全部で9人。
この男たちが椿をレイプしたのだろう。
男たちがトイレに入ってから約20分後。
姿を現した長身のスーツの男に、草薙と鳴門は愕然とした。
「草薙さん、こいつ――」
「あぁ……」
草薙は息を呑む。
『銀さんは――』
あの夏の日。
心配そうな目で椿が安否を聞いた、丹下組の新若頭――橘 銀一郎の姿。
組んだ両手を額に当てた草薙は大きく首を振った。
途方もなく不吉な予感が――草薙の胸を駆け抜けていった。
※
目を覚ましたとき、椿は暖かな布団の中にいた。
掛け布団をめくり、ベッドの上にからだを起こす。
黒を基調にしたモダンなリビングルームが、寝室の扉の向こうに見える。
「……起きたか」
リビングのソファにいた銀が、ラフな部屋着姿で椿のもとにやってくる。
椿が着ていたのも、ぶかぶかの銀のTシャツとハーフパンツ。
ベッドの端に腰かけ、椿の頬にそっと手をかける。「熱は――ないか?」
「……は――はい……」
耳朶まで真っ赤になり、椿はうなずく。
「――食欲は……あるか?」
「すこしだけ……」
「1階のコンビニでサンドイッチ買ってきた。食うか?」
「はい……」
高層階にある銀のマンションの部屋からは、朝焼けに染まる大都会の街並みが一望できた。
東向きの窓から明るい陽が差し込む。
半円形のダイニングテーブルの椅子に腰かけた椿に、冷蔵庫からサンドイッチを持ってくると、紙パックの牛乳とオレンジジュースを見せ、「どっちがいい」と聞く。
「あ……ぎゅ、牛乳で――」
目の前に牛乳を置かれる。
隣の椅子に腰を下ろした銀は、あんぱんとコーヒーを食べはじめる。
「……あ――あの……」
思いきって、訊ねてみる。「なんで――助けてくれたんですか……?」
――昨日の夜。
公園のトイレから助け出され、銀の車に乗せられ、マンションに来た。
お風呂に入り、汚れたからだをきれいに洗ってもらい――ベッドに運ばれ、そのまま眠ってしまった。
「……ヤスのやつがおまえの動画を見ていてな――」
ヤスというのは、椿の性奴隷調教を担当した銀の舎弟だった。
「目を隠して顔がわからないようにしているけど、最後はかならず、視聴者を煽るようにちら見せしてくる。……静止してよく見ると、目の下に大きな泣きボクロがあるのがわかった。これは絶対三浦椿だ――とな」
「…………」
「最初は、おまえが好きでやっているのかと思った。だけどおまえがときどき泣いているのを見ると、胸が妙に痛くなって――おとといのライブ配信でオフ会の告知をしたときも、ケツ穴を自分で開いて『カメのエロマンコにたくさんハメハメしてくださいね♡』とかいいながら、涙を流し続けるおまえを見ているうちに――どうにかしてやりたくなって……ヤスに申し込みをさせて、あの場所を特定した。もっと早く助けてやれなくて――ほんとうにすまなかった……」
涙が――とまらない。
サンドイッチを手に、しゃくりあげる椿の髪をそっと撫ぜた銀は、
「――おまえをあのクラブにやったのはおれだ。……おまえはほんとうは、東南アジアの金持ちに売られることになっていた。だけどそいつは、美少年の手足を切り落としてダルマにして弄ぶのが大好きなキチガイで――おまえをそんな目には遭わせたくないと思い、あのクラブに送り込んだ。だけどけっきょく、おまえはどこにいても――つらい思いをしてきたんだな……」
美しいエメラルドグリーンの瞳で、椿をじっと見つめる。
涙でぼやけるその目を見つめ返した椿は、あの日の「……すまない」の理由 を知ったような気がした。
銀は椿をこの牢獄から出してやりたかったのだ。
いつのまにか、椿が銀に強く焦がれていたように――銀もまた、目に見えない不思議な引力で、椿を想っていてくれたのかもしれない。
「……ごめん」
目の縁にたまった涙を親指の腹で拭った銀がささやく。
「もう――おまえを離さない。ずっと――死ぬまで……」
泣き濡れた頬に唇が触れる。
やがて、その唇が唇を求め――鮮やかな朝陽を浴びながら、ふたりはキスをした。
――その日から、椿は銀のマンションで暮らすようになった。
※
秋が過ぎ、冬になった。
椿は、マンションから一歩も出ない生活を送っていた。
買い物は銀が買い与えてくれたスマホで注文したものが玄関先に届く。
毎日、部屋をピカピカに掃除し、愛しあった名残りのついたシーツを洗濯し、銀のワイシャツにアイロンをかけ、夕方から時間をかけて手の込んだ夕食を作る。
じっくりコトコト煮込んだシチュー。
焦げ付かないよう鍋底をかき回しているうち銀が帰ってきて、駆け寄り、その首にしがみついてキスをする。
誰にも縛られない――夢のような安全地帯。
――夕食の後。
「……うっ……んッ……」
ソファで、身を絡ませながら抱きあう。
銀の手が、椿のセーターの下に潜り込む。
「アッ! アッ……!」
セーターをたくしあげられ、ピンピンに尖った乳首を剥き出され、音を立てて吸われる。
のけぞる椿のパンツに手を入れ、すでに固くなっているチンポを扱く銀。
「うっ! うぅっ……!」
あっという間にイかされ――銀の用意したティッシュの中に出した。
「……気持ちよかったか?」
「はい……」
瞼にキスを落とされた椿は目をつむる。
寝室に移動し、服を脱ぎ、シックスナインの体位をとる。
「……おっ――! ほっ……はぁっ……!」
頭の上に跨った銀のペニスを、椿は口いっぱいに頬張る。
銀のペニスは予想通り大きくて――筋がギンギンに張っていて、十分な太さがあった。
サオを手で握り、けんめいに口で扱く。
椿の股のあいだに顔を埋めた銀が、アナルを、ツンッ、と舌先でつつく。
「ひゃんっ……」
会陰から窄まりまで丹念に舐められ、頬が熱くなる。
銀と出会うまで誰からもされたことのなかった優しい愛撫。
なのに―――――
(うっ……もっ……もっと――激しくして――)
ヒクッ、ヒクッ、と尻穴がいやらしく動いているのを感じるのに、それを揶揄してこない。
「可愛いな、椿のここ……」
そっと指先でなぞり、タマ袋をチョロチョロ舐めるだけだ。
(ちがう――指でグチョグチョにしてっ……ナカまで弄ってぇッ……!)
叫び出したい思いをこらえながら、昂ってきた銀のペニスを食 む。
「ナカに出していいか?」
聞かれて、咥えながらこくんとうなずく。
椿の口からペニスを抜いた銀は、サイドテーブルの引きだしから、ラブローションを取り出し、仰向けになった椿の尻穴にそっと塗り込む。
「んっ……!」
中指だけでほぐされ、軽く準備されてから、「入れるぞ」とペニスを挿入される。
「あっ……! アァッ……!」
ズチュッ、ズチュッ、と突き上げてくる――リズミカルな動き。
「うっ、すげー締まる、おまえんなか……」
「はっ! あぁっ……」
「気持ちいいか?」
「は――はい……」
……銀は、限りなくノーマルなセックスをする男だった。
性奴隷調教のとき見せたSの顔はおそらく外向きのもので、ふだんは出して終わり、ということが多かった。
そういえば、セックスの後、「なんでカメって呼ばれてたんだ」と聞かれたことがある。
『ケツマンコ奴隷カメ』の由来が気になっていたようだ。
「……椿だから――」
ベッドのなかで、銀の裸の胸に寄り添いながら、椿は答えた。
「椿は、英語で『Camellia(カメリア)』っていうんだ。その頭文字をとって、『カメ』って……」
「……マジかよ」
銀は目を見ひらく。「そんなきれいな名前なのに……」
ひでぇな、と椿の肩を抱き寄せる。
その腕に彫られた昇り龍のタトゥーにそっと触れた椿は、「うん……」とうなずいた。
――おい。カメ。いい子にしてたか?
ふと脳裏によみがえる。
いたずらっぽい、司の笑み。
やっと――やっと逃げられたはず。なのに…………
「……うっ! んんッ……!」
ナカに出され、ゆっくりと引き抜かれる。
ティッシュでペニスを拭いた銀は、「腹んなか気持ちわるいだろ。シャワーで流してこいよ」椿の髪を撫でて気遣う。
「うん……」
薄く微笑んだ椿は、リビングの横にある浴室に向かった。
シャワーを出し、バスタブに左手を突いて、右手の指をアナルに突っ込む。
指は1本から2本、3本と増え――しまいには4本の指で、グチュグチュとナカを掻きまわし、
「うっ、もっと……! 奥まで入れてっ……! ケツマンコ奴隷カメのドエロおまんこっ、めちゃくちゃにしてくださいッ……!」
叩きつけるシャワーの下で叫ぶ。
被虐の喜びを求めて揺れるチンポから、涙のようなガマン汁が滲み出していった。
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