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第7話

 初めは、小敏が積極的に優木を求めた。口づけし、胸を合わせ、背中を掻き抱き、消極的な優木をその気にさせようと夢中だった。 「好き…。優木さん…好き、なんだ…」  実際、小敏がこれほど自分から求めるのは珍しいことだ。  いつでも、ちょっとその気のある男の前で、物欲しそうな顔をすれば、すぐに相手が夢中になって小敏を口説き、奉仕し、抱き尽くすのだ。  けれど、今の小敏は、なぜか、この、善良さしか取り柄のなさそうな、ちょっと意気地のない日本人が愛しくて、夢中だった。 「ちょ、ちょっと待って…シャオミン」  自分に上から伸し掛かるようにして、かなり積極的に貪る小敏を、優木は慌てて押し退けた。 「心配しないで…、ボクが受け入れるほうで、優木さんを犯したりしないよ?」  冗談っぽく、クスっと笑う小敏が、まるで、ずっと憧れていたアイドルのようで、優木の男がズクリと疼いた。  優木は、小学校高学年の頃には、すでに色白の美少年タイプを愛する性癖があることに気付いていた。  平凡な容姿、凡庸な中身の自分が、憂いを帯びた儚げな美少年になることはとっくに諦めていたが、理想の少年と巡り合いたいと願い続けて、高校生になった。  それでも、理想の相手に近いと思っても、親しくなるきっかけがそうあるわけでも無く、ただ遠くから見るばかりで鬱々としていたある日、知ったのが、中性的な美貌が並ぶ韓流アイドルのボーイズグループだった。  同級生たちは同じ頃に、同じ韓流アイドルのガールズグループに熱狂したが、優木はいくつものボーイズグループを人知れず追っていた。幸いにブームもあって、ネットや、雑誌や、DVDなど情報源はいくらでもあった。  透き通るように白く、艶やかで、人形のように美しい肌、華奢でいて、それでも伸びやかな体。赤い唇に浮かべる優しい微笑み。ファンを誘惑する眼差しや声も、計算し尽くされ、何もかもが優木の理想通りだった。  もちろん優木にとって彼らは、性的な対象であり、実際、何人ものアイドルの動画にお世話になったこともある。  だが、物理的な距離も含めて、彼らは遠い存在で、触れることはおろか、直接会うことなど決してないと思っていた。  日本にも、彼らを真似た姿のアイドルや若者たちがいなくもなかったが、優木にとってはどれも彼らの輝きに追いつけるレベルでは無かった。  あの美しい青年たちに会うことも、触れることも、ましてやセックスなどあり得ない。  30歳を過ぎて、ようやく優木はそのことを痛感し、彼らと決別する決心をした。たくさんの雑誌やDVDを、他の誰かの手に渡るのがイヤで、優木は全てを棄てたのだった。

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