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第8話

「どうしたの?優木さん?」  そう言いながら、慣れた様子の小敏は、優木を見下ろしたまま、膝立ちになるとデニムパンツのウエストボタンを外した。  そして、見せつけるように長い脚から下着ごとに抜き、あっと言う間に全裸を晒し、黒のブランドものらしいデニムをベッドから楽しそうに放り投げた。  優木は、そんな無邪気な小敏の行動を唖然として見ていることしか出来ない。  まるで誰も触れたことが無い雪のような、清純さを感じる、白くて滑らかな美しいカラダだ。手足も長く、バランスも良い。そして、欲望さえ隠そうとはしない素直さが眩しい。 「シャオミン…、ダメだ、今日は」  目の前の青年は、何もかもが優木の理想通りだった。  30歳で棄てた理想が、そのまま優木を求めてくるという、奇跡としか言いようのない今に、優木は夢を見ているのかと思った。  だが、この青年は現実に存在するのだ。優木も、現実に即した対応をすべき年齢でもある。 「どうして?ボク、何か優木さんの気に入らないこと、した?」  カワイイ「シャオミン」が、なぜ、こんなに寂しそうな顔をするのか、優木は胸が痛む。 「今日は…、こんな予定じゃなかったから、コンドームの用意をしてない」  深刻な顔で言った優木に対して、何でもないことのように小敏は笑った。 「優木さんて、実は『素人童貞』でしょ」 「は?」  小敏は、悪戯っぽく笑い、ポカンとする優木の鼻を軽く摘まんだ。 「優木さんに、そんなの、要らない。優木さんのが、欲しいんだもん。ナマで中出ししていいよ」 「し…シャオミン?」  余りにストレートで衝撃的な一言に、優木は小敏の言葉の意味よりも、他の考えに囚われていた。 (たった4年の留学で、こんな日本語を知ってるんだ…) 「信じてもらえないかもしれないけどね…」  優木を魅了する、キレイで、カワイイ笑顔で話し掛けながら、小敏が、優木のスラックスのジッパーに手を伸ばした。 「ボク、ゴム無しでするのって、片手で数えるほどもないよ」 「え、そ、そうなんだ…」 「ん、最初から、そういうのが必要だって教わったから。それに、中を汚されてもイイって思えるほど、好きになった人もいなかった…」  ちょっと悲しそうにそう言ってから、緊張する優木の下着に触れた小敏は、ひたむきな目をして、言葉もなく首を傾げた。  それは、優木からの許しを待つ態度で、小敏は心からこの男を欲しているのだった。その気持ちが、優木にも届いたらしい。 「主導権、俺がもらってもいい?」  その一言で、生真面目な優木が、ついに意を決して、本気になったのだと分かり、小敏はパッと明るい顔になった。 「優木さん…カッコイイ…」  小敏が嬉しそうにそんな声を上げた瞬間、優木は小敏の腕を引いて胸の中に抱き留め、体の上下を入れ替えた。 「俺が、シャオミンを抱くよ」 「うん」  嬉しそうに優木と口づけを交わす小敏の頬に、涙が一筋流れた。 (やっと…、見つけた…)

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