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第13話
何かが動く気配に、小敏 は目を覚ました。
「…ぅん?」
寝がえりをしたその先に小敏が見たのは、そっとベッドを抜け出し、まだ薄暗い中、寝室から続くバスルームに向かう恋人・優木 だった。
「優木さん?」
「あ?シャオミン、起こしちゃったか?」
優木は、その名の通りの優しい、穏やかな小声でそう言った。
「まだ早いよ。…疲れてるだろう?もう少し寝てなさい」
自分自身、よほど疲れているはずなのに、その原因となった小敏を労わってくれる。
「もう、相変わらずイイ人なんだから…」
寝起きの掠れた、なんとなくセクシーな声で、嬉しそうに小敏が言うと、気恥ずかしそうに笑って優木はバスルームに消えた。
1人になった小敏は、ベッドサイドの時計を見た。
(もう7時か…。優木さん、出勤の準備するのに、帰っちゃうんだよね…)
急に、取り残される寂しさを自覚して、小敏は寝ていられなくなった。
***
「お、おい、シャオミン!」
鏡に向かって髭をあたっていた優木は、自分の背後で、寝起きとは思えない、童顔なのに艶やかで、端整なのにあどけない、カワイイ恋人の笑顔を見つけて驚いた。
「驚かせるなよ」
「ふふふ」
鏡の中で微笑む小敏は、全身こそ写ってはいないが、おそらくは何も身に付けていないはずだ。
「だって、優木さんのが中に残ってるんだもん。シャワー浴びたい~」
そう言って甘えながら、バスローブ1枚の優木の背中に纏わりついた。
「ねえ~、優木さんも、一緒に~」
「いや、だから、俺は支度があるから」
「最後までシなくていいから~」
ベタベタと甘えてくる小敏の扱いに手こずった優木は、一度手の中のT字カミソリを洗面台に置いて、クルリと振り返り、小敏を強く抱きしめた。
「イイ子だから、コレでちょっと我慢して」
そう言って、ゆっくりキスをすると、優木はちょっと困った笑顔で、自分より少し背の高い小敏の表情を窺った。
「ん~」
軽いキスの後、ちょっと物足りない顔をした小敏だったが、それを読み取った優木が言葉を足す。
「イイ子にしてくれたら、明日は休みだから、今夜は頑張るからさ」
その言葉を待っていた小敏は、満面の笑みを浮かべた。その笑顔があまりにも無邪気でキレイなのが、優木には眩しい。
「じゃあ、許してあげる。けど、今夜の約束は守ってね」
今度は小敏の方から優木にキスをして、全裸の小敏は恥じ入る様子も無く1人でシャワーを浴びた。
「優木さん、朝ごはん一緒に食べようね!」
バスタオルで体を拭きながらそう言った小敏は、また鏡越しに優木に微笑み掛け、小走りにバスルームから出て行った。
翻弄されるばかりの若い小悪魔を苦笑しながら見送った優木だったが、それでも今が幸せだと思った。
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