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第14話
「あれ?シャオミン?」
髭をあたり、小敏 が使ったあとのシャワーを浴び、小敏の自宅クローゼットに置いてある私服に着替えて優木 が寝室から出てくると、キッチンの前のダイニングテーブルに座って、ニコニコしているカワイイ恋人がいた。
「遅かったね」
「いや、シャオミン、何してるの?」
キョトンとする優木に訊かれて、逆に今度は小敏の方がキョトンとする番だ。
「何って…何が?」
「え?」
「は?」
2人は顔を見合わせ、次の瞬間、笑うしかなかった。
「だって、『朝ごはん一緒に食べよう』って言ってたから、作ってくれるんだと思ってたんだけど」
「あ~、そっち」
優木の期待にようやく気付いた小敏は、気まずさを誤魔化すような笑いを浮かべた。
「『そっち』ってどっちだよ」
呆れたように言って、優木はリビングに向かった。
リビングのソファの上に置きっぱなしだった自分のサコッシュを取り上げると、優木は小敏を振り返った
「で、朝食はどうするんだ?」
「一緒に、外で食べようと思ってたんだけど」
「あ~、そっちか…」
今度は優木の方が小敏と同じ言葉をつぶやいて、2人はニヤリとした。
「なら、早く出よう。俺のアパートの近くに、朝飯のウマいカフェがあるよ」
「うん!」
2人は笑顔を交わしながら、仲良く小敏の長風 地区のアパートを後にした。
***
虹橋 地区は、旧日本租界があった地区で、日系の企業や、そこで働く駐在日本人が多く住む。日本料理店はじめ、日本人向けの理髪店、日本製品専門のセレクトショップなどが多く、リトルトーキョー的な様相がある。
優木の勤める文具メーカーが借り上げた社宅代わりのアパートも、この地区にあった。
4階建て、1フロア5軒、20部屋のアパートのうちの大半を、優木の会社だけでなくいろいろな日系企業が借り上げている。今は優木の会社が借り上げているのは、優木の住む1室だけだが、1フロアごと借りている企業もある。
これと同じようなアパートが、この辺りにはいくつもあり、そのため日本人好みの店も次々開店しているのだ。
「あ、ボク、このホットサンドセット。ホットコーヒーで。それと…」
小敏は優木に言われたカフェで、出勤用のスーツに着替えるために自宅へ戻っている優木の分も朝食の注文をしておくよう、頼まれていた。
「連れの分は…、このミックスサンドとホットミルクで」
「はい。ホットサンドセットとミックスサンドセット、お飲み物はコーヒーとミルクですね」
「はい、それで。くれぐれも、飲み物はホットで、ね」
念を押す小敏に、中国人ウェイトレスの女の子はニッコリと微笑んだ。
愛想が悪いことで知られる中国人服務員 だが、イケメンや美女を前に厳しい顔をしていられないのは万国共通である。
「お待たせ!」
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