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第18話
改めて、親友の描いた従兄のデッサン画を感心して眺めていた羽小敏 は、気になって煜瑾 に訊いてみた。
「その絵、鉛筆書きみたいだけど、どうするの?」
小敏の問いに、煜瑾はちょっとはにかみながら答えた。
「…油絵で仕上げようと思うのです」
「へえ。煜瑾、油絵も描けるんだ」
「子供の時に習っただけですが…。またレッスンを受けようかなって…」
真面目な煜瑾らしく、油絵を描くためにちゃんとレッスンを受けようと考えているのが、小敏には微笑ましかった。
「スゴイな、煜瑾って多才!」
素直な小敏が目を輝かせて褒めると、恥ずかしそうにしながらも、どこか誇らしげに煜瑾は打ち明けた。
「ふふふ。実は…油絵で仕上げて、額装して、文維 のクリニックに飾ってもらえたらいいなって」
「え~、ステキ!絶対に文維も喜ぶよ」
「本当にそう思いますか?」
高雅な笑みを浮かべながらも、煜瑾は少し心配そうにしていた。
「絶対にそう思う!」
真剣な目で煜瑾の美貌を見つめて、小敏は確信を持ってキッパリと言い切ると、煜瑾はふんわりとした天使のような微笑みを浮かべた。
その笑顔に魅せられながら、小敏は心の言葉が思わず漏れたように言った。
「文維は、本当に煜瑾に愛されてるな~」
その真実味のある呟きに、煜瑾は頬を染め、小敏からソッと視線を外して笑った。
「うふふ。だって、文維が私を愛してくれるからです。私は文維に愛されて幸せなので、その気持ちを少しでも返したいのです」
天使のように、見た目も性格も穢れなく、美しく、高潔な煜瑾が、至福の笑みを浮かべている様子に、小敏もとても温かい気持ちになった。
「いいな~。2人はホントに幸せそうで、見ているコッチまで幸せになるよ」
「ふふふ」
煜瑾の笑顔は、本当の天使のような癒しがある。思わず小敏は親友をギュッとハグした。
「ボクらのためにも、ずっと幸せでいてよね」
「はい」
幸福の天使が2人、ひっそりと抱き締め合い、和やかで穏やかで平和な時間を満ち足りた気持ちで味わった。
***
優木のオフィスは、日本の文具メーカーの上海営業所で、所長は日本の本社で採用された中国人だが、日本語も堪能で、日本式のビジネスも熟知しているので、営業所で唯一の日本人である優木も信頼している。
他に事務の女性が2人。営業担当が男女1人ずつ、それに営業課長の優木と、営業所のスタッフは全部合わせても6人だ。
優木はその中で唯一の日本人で、中国語もカタコトなので、課長というポジションながら、みんなにフォローされることも多い。それでも、優木の人柄の良さで、営業所内では敬愛されていると言って良かった。
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