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第26話

 唐煜瑾(とう・いくきん)は、その夜、担当していたクライアントのショップが開店することが決まった、プレオープンの内輪のパーティに出席していた。  前回の、日系のセレクトショップのインテリアデザイナーとしての仕事が成功したことで、今回も日系のショップから指名され、ようやく一人前に仕事が出来るようになってきた煜瑾である。  知人が少ないパーティー会場で、気が付くと、煜瑾は1人になっていた。  それでも、以前のように動じることは無く、最初に配られた美味しい赤ワインを、いつまでも少しずつ舐めては、落ち着いた様子で周囲を嬉しそうに見回していた。 「ねえ、君が唐煜瑾でしょう?」  その時、背後から声を掛けられ、煜瑾は「唐家の至宝」らしい、優雅な仕草で振り返った。  そこにいたのは、見知らぬ男性だったが、スラリと華奢で背が高く、女性と見まがうほどの柔和な美貌だった。煜瑾の少年っぽさの残る美しさとはまた違う、清楚でありながらどこか妖艶さもある、不思議な人だった。 「初めまして、唐煜瑾。私は宋暁(そう・しょう)包文維(ほう・ぶんい)の友達だよ」  恋人である文維の友達と言われ、煜瑾はすぐに笑顔になって、差し出された手を握り返した。 「初めまして、宋暁さん。私は唐煜瑾です。文維のお友達なのですか。どうぞよろしくお願いします」  素直な煜瑾に、宋暁青年はちょっと顔を歪めたが、すぐに取り繕ったような笑顔を浮かべた。 「今は君が、文維と付き合っているんだって?」  煜瑾より少し背の高い宋暁は、まさに見下すように言うが、その嫌味な口調が、本物の貴公子である煜瑾には通じないことを宋暁は知らなかった。 「そうなのです。文維から聞かれたのですか?」  無邪気に微笑みながら言われ、宋暁は一瞬たじろいでしまう。  このリアクションはさすがに宋暁も想定外だった。こんな態度が取れるのは、よほど厚かましいか、本当に天使かどちらかしかない。 「ま、まあね」  一旦動揺を収めようと、宋暁は手にしたシャンパングラスを空けた。  何となくやりにくさを感じた宋暁は、本題に入ることにした。 「ところで…、包文維とのセックスは最高でしょう?少なくとも私の時は、そうだったけどね」  そう言ってニヤリとした宋暁に、ここで初めて煜瑾は、決して宋暁が好意的に近付いて来たのではないのだと気付いた。 「以前に、文維とお付き合いがあったのですか?」  煜瑾は、少し訝しむように宋暁に訊ねた。

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