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第28話
「ただいま帰りました~」
嬉しそうに帰宅を告げた唐煜瑾 は、急いで煌々と明かりのついたリビングへと向かった。
「お帰り。楽しかったようですね」
恋人の笑顔に、包文維 も満足そうに迎えた。煜瑾のお気に入りの大きなソファで、1人専門誌を読んでいた文維は、両手を空けて、大きく開いた。
「はい。皆さん親切でしたし、お仕事も評価して下さって。それにパーティーのお料理もとっても美味しかったのです!今度、そのカフェに文維も一緒に行きましょうね」
一息にそれだけ言うと、煜瑾は荷物を置いて、文維の胸に飛び込んだ。
文維にしてみれば、まさに舞い降りた天使だ。手放すまいと、ギュッと抱き締めた。
「やっぱり、文維と一緒なのが一番いいです」
幸せそうに、文維の胸に抱かれた煜瑾だったが、不意にその美貌を曇らせた。
「でも、今日は1人だけ不愉快な方がいました」
「え?」
高貴な出自であり、名家の深窓の王子様だった煜瑾は、人を疑うことを知らず、他人への好き嫌いなど口にしたことが無い。その煜瑾から「不愉快な」人間がいたと聞かされて、文維は心配になる。
普段から文維は、この美しさ、純粋さ、何もかもが優れた煜瑾を、自分の見ていない時に、誰かが触れようとするのではないかと、不安を抱いている。
まさか今夜、邪念を抱いた誰かが煜瑾に近付いたのではないかと、文維は危惧した。
「何かされたのですか?」
真顔になった文維が訊くと、近頃身に付いたと思われる、艶麗な表情を浮かべた煜瑾が切ない瞳で訴えた。
「多分…」
「多分?」
曖昧な煜瑾の答えに、文維は困惑した。
先ほどの事を思い出したのか、煜瑾はムッとした顔をして黙り込んでいる。
「何があったんです?」
心配した文維が煜瑾の顔を覗き込んだ。
「文維を返すように言われました」
「は?」
相変わらずエレガントな煜瑾の美貌だが、どこかご機嫌が悪い。
「宋暁 という人が、文維を自分の物だから返してもらう、と私にわざわざ言いに来たのです」
「え、あの、宋暁が?」
その名に、ハッキリと覚えがある様子の文維は、明らかに焦りを見せる。
「失礼だと思います。文維が自分の物だ、などと」
「もちろんですよ。何も心配しなくていい。私は煜瑾だけの物ですからね」
慌てて落ち着きを取り戻し、文維は煜瑾を抱き寄せ、額に唇を押し当てた。
「もし…」
目の前の優しい文維の目を見詰めながら、少し潤んで不安げに揺れる瞳で煜瑾が重い口を開いた。
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