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第30話

「私も同じです。私の煜瑾(いくきん)に微笑みかける人間すべてに嫉妬します。いや、近寄るもの、何もかもに嫉妬してしまう。私だけの煜瑾なのに、って腹立たしく思います」 「ぶ、文維(ぶんい)…それは…」  まるで文維の言うことが、愛の告白であるかのように、煜瑾には聞こえてしまい、真っ赤になった。 「どうです?嫉妬されるのは不快ですか?」  文維の問いかけに、煜瑾は改めて熟考する。 「た、多分…、嫉妬されるほど愛されているので…、嬉しいです…」 「そういうことです」  生れて初めての「嫉妬」という感情に向き合った煜瑾の戸惑いが、純粋で 幼気(いたいけ)で、可愛らしくて堪らなくなった文維は、我慢が出来なくなった。 「あ…、ダメ…。いけません、文維」  急に抱き寄せられ、唇を塞がれ、煜瑾は慌てた。 「なぜですか?こんなにカワイイ煜瑾を前にして、私に我慢をしろと()いるのですか?」  ちょっと離れて、拗ねたように言う文維に、煜瑾はドキリとしてしまう。こんなにオトナっぽくてセクシーな男に、甘えるように言われて拒めるはずがない。 「ええっと、でも…」 「触れられるのもイヤなくらい、私がキライになった、とか?」  ためらう煜瑾に、くすぐるように言葉を重ねて来る巧妙な文維だ。さすがに経験値が大いに違う。 「そんなことは絶対にありません!」  文維の意地悪な質問に、慌てて否定する煜瑾だが、それを文維が楽しんでいることにも気付かないほどに、まだまだ純粋だ。 「あ!」  逡巡する煜瑾の隙を突いて、文維がソファに押し倒し、伸し掛かった。 「少しだけ…。…ね?」  優しく、甘い笑顔で求められ、煜瑾は今夜も簡単に丸め込まれてしまう。 「少し…、だけなら…」  煜瑾の答えに、満足げな笑みを浮かべた文維は、感謝するように深く口づけながら、その手を煜瑾の着ている物に伸ばす。 「はぁ…。ん…。…!」  息が上がり始めた煜瑾だったが、急に文維の手に自分の手を重ねた。 「どうしました?何か、怖いのですか?」  (なだ)めるように文維が言うと、煜瑾は少し困った顔をして答える。 「あの…、このソファはとってもお気に入りなので…」 「ええ、分かっていますよ」 「…あまり、汚したくないのです…」  恥ずかしそうにそう言って、真っ赤になった顔を背ける煜瑾の可憐さに、文維の愛しさはますます募る。 「分かりました。気を付けます。それと…」 「それと?」  見返す煜瑾の無垢な瞳に、文維は今もなお魅了される。  これほど美しく、穢れなく、気品のある天使を、自分だけのものに出来た幸運に文維は感謝したい。 「次のお休みには、ソファのカバーを買いに行きましょう」 「!…はい!」

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