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第37話
翌朝は休日で、昨夜の激しい行為のせいもあり、昼までゆっくり寝入るつもりの優木 だった。
だが、その思惑は、若く、美しく、元気いっぱいの恋人のせいで木っ端みじんに砕かれた。
「ねえ~、優木さ~ん、お腹空いたよ~」
昨夜の、苦しい想いを吐露した時の弱々しさを忘れたように、いつも通りの甘い上手な悪戯っ子が、静かに休みたくて俯せになった優木の背中に乗り上げた。
「お、重い…」
すっかり叩き起こされ、情けない顔をして優木は小敏 に許しを請うた。
「頼むから…、シャオミン、もうちょっと大人しく起こしてくれ…」
「ヤダ。お腹空いた」
「せめて、シャワー浴びて、服を着なさい」
「ヤダ。優木さんとお風呂に入って、エッチなことするんじゃなきゃヤダ」
とにかく無茶苦茶を言って困らせることで、小敏が自分に甘えているのが分かっている優木は、仕方なく小敏を自分の上から引きずり下ろし、なんとか上半身だけは起き上がった。
その隣に、ちょこんと座り込んだ小敏は、一糸まとわぬ顕わな姿ではあるが、恥じること無い美しさである。
その、少年のような清冽さを感じさせながら、色気もある、妖艶な小悪魔である小敏の裸体に、優木は満足そうに微笑む。
「お腹空いたって?」
「うん」
「俺が作った朝ご飯が食べたい?たまには、愛しい俺のために、何か作ろうって気にはならない?」
呆れたように言う優木が好きそうな表情を計算して、小敏は悩ましい上目遣いで答えた。
「優木さんが作ったのが、食べたいな…」
あざといはずの行為だが、カワイイ小敏がすると、優木は無条件で受け入れてしまう。
「じゃあ、すぐに仕度するから、何か着なさいね。風邪を引かれちゃ困る」
「優木さんに、暖めてもらうから大丈夫だよ?」
無邪気な顔をして誘惑する小敏に返す言葉も無く、優木は昨夜脱ぎ捨てたパジャマを拾い上げ、手早く着込むと、恋人の期待に応えるためキッチンに向かった。
その後ろ姿を、子供のような笑顔で見守っていた小敏だったが、ふと現実を思い出し、その重さに潰されそうになる。
(優木さんを手放したくない…。でも、優木さんを守るには…、別れるしかないのかも…)
いつも明るい小敏だが、今は虚ろな表情をして、ジッとしていると涙が滲んできた。
(優木さんが好きなんだ…。優木さんが、好きなだけなのに…)
小敏は、優木の優しさに、誠実さに、自分だけを愛してくれる一途さに、夢中だった。
自分だけを全力で愛してくれる優木に出会って初めて、父親の事で失った他人への信頼を小敏は取り戻すことが出来た。決して裏切らない愛情…それが今の小敏にとって、生きていくには必要なたった1つのものなのだ。
それを守るために、手放さねばならないのは、小敏には苦しいことだった。
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