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第39話
最近、小敏 のお気に入りだと言う火鍋店へ行き、海鮮や肉をたっぷりと食べ、大きな荷物を抱えて、小敏たちは優木 のアパートに戻った。
火鍋でかいた汗を、狭いバスルームで密着するようにしながら流し、そのまま激しく口付けを交わしながらベッドへと移動した。
「ありがとう、優木さん…。大好きだよ」
荒い息の下で、小敏は自分の不安を汲み取ってくれる、優しい恋人に何度も感謝した。
優木の方は、付き合い始めたばかりの頃、小敏のような理想通りの恋人を得て、自分だけが幸せだと思っていた。それがどこか後ろめたい気がしていたのだが、近頃になってそうではないと気付き始めた。
どれほど美しく、どれほど妖艶であっても、誰も優木ほどには小敏を愛して来なかったのだ。
優木が心から小敏を愛しいと思う気持ちが、人を信じられなくなっていた小敏を救うのだと分かった。何も出来ないと思っていた自分が、ただひたむきに愛することだけで小敏を幸せに出来ると、優木は少しずつ分かり始めていた。
激しく唇を貪りながら、ベッドに倒れ込み、優木と小敏は淫らに絡み合った。
「あ…っ、…ん…、優木さん…、もっと…」
不安を拭い去りたいと、貪欲に求める小敏が不憫で、優木もまた激しく掻き抱いた。
「好きだ…、シャオミン…。大好きだよ…」
「優木…さ、ん…」
自身の奥深くに優木を受け入れた小敏は、1人は無いことを強く実感していた。愛する人と1つになることの幸せに、小敏は心から満たされていた。
「ああっ!…優木さんっ!…」
***
満ち足りた時間を過ごし、2人はギュッと抱き合って余韻を味わっていた。
「本当は、優木さんとどこかへ行ってしまいたい…」
思い詰めた目をしながらも、どこか夢を見るような口調で小敏は言った。そんなことが実現するはずがないことをよく理解しているからだ。平凡な日本人サラリーマンである優木が、何もかも放り出して、いきなりどこかへ行くことなど出来るはずも無い。また、どこへ逃げようと、小敏の父の捜索の網から逃げられるはずも無いのだ。
「俺も、何より、誰より、シャオミンが大好きだ。こんな風に、誰かに引き離されるなんて、本当にツラいよ…」
温かい手で小敏の髪を撫でながら、優木は小敏を動揺させないよう穏やかに言った。
「シャオミンのお父さんが上海にいる間、我慢する。もちろん、浮気なんてしない。韓流アイドルの動画だって観ない。スマホに、最愛のシャオミンの画像も動画も入ってるし」
「ふふふ…」
自分の機嫌を取ろうとする優木が、小敏には嬉しかった。
「だから、火曜にお父さんが北京に帰ったら、またここへ来てくれるかい?おれは、いつまでも待ってる。もうその日は有休をとってあるんだ」
思いがけない優木からの「プレゼント」に小敏のキレイな顔が、明るく輝いた。
「約束だよ!」
小敏は大喜びで優木の体に乗り上げ、何度も上から口づけの雨を降らせた。
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