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第42話
監視されるために、父のスイートルームのサブの寝室に押し込められると思っていた小敏 だったが、意外にも、スイートルームと同じ最上階にある、スイートではないプレジデントルームだった。
まさかの個室にビックリの小敏だったが、それでも貸し切りになっているホテルの最上階以外は自由に出入りすることが出来なかった。
父が到着した金曜は、小敏と一緒に遅いランチを食べたが、夜になると父はSPたちと出て行った。
残されたのは、2人の従卒だったが、1人は小敏と同じか少し上くらいの30代。もう1人は、まだ若い新兵だった。
20代前半の新兵に、小敏は5年前の少年の面影を探したが、似ても似つかぬ顔立ちで、例の父の愛人とは思えなかった。
翌日の土曜日は、朝から父とスイートルームでゆっくりと朝食を食べ、午前中は新しいショッピングモールを見学がてらに買い物に出掛け、昼食に寄った浦東の高級ホテルのレストランには、小敏の母の実弟である包伯言 とその夫人である恭安楽 の2人が待っていた。
「お義兄 さま、ごきげんよう」
いつでも、いつまでも少女のように快活で明るい、包夫人に羽厳 将軍も破顔する。
ランチでは、羽厳と包伯言が歴史や国際問題など、けっして国内の内政に触れない話題で真剣に語り合っていた。小敏と仲良しの叔母である包夫人は、最近開店した美味しいスイーツの店の話や、小敏の従兄で、包夫人の自慢の1人息子である文維 の噂話で盛り上がった。
そして、そのまま包夫妻と共に宿泊先のホテルに移動し、夜は文維も合流して、スイートルームに豪華な夕食を用意させた。
「文維…」
食事中、あまりにも自然に羽厳が優秀な甥に話し掛けた。
「何でしょう、伯父 様?」
幼い頃から神童と呼ばれた羽厳将軍の甥は、いつも泰然としていて、羽厳も一目置いてきた。今も、この若さにしては落ち着いた態度に、羽厳も感心している。
「君は、最近、婚約したと聞いたのだが?」
その一言に、文維以外の家族の動きが止まった。
「さすが伯父様には隠し事は出来ませんね」
すでにこうなることを予測していたらしく、文維は動じない。
「お義兄さま、ごめんなさい。お知らせするのが遅くなってしまって…」
文維の母は慌てて取り繕うとするが、羽厳将軍は軽く右手を上げて、それを制した。
「話は、今、文維から聞くから構わない」
羽厳の言葉に、小敏は父がすでに文維と、婚約したばかりの唐煜瑾 の事を知っているのだと気付いた。
「文維?それで、お相手は、どこのお嬢さんだね?」
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