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第45話
「小敏 、今日の予定は?」
包 家との会食の翌朝、またもスイートルームでのルームサービスの朝食の席で、今朝はなぜか機嫌の良い羽厳 が小敏に訊ねた。
「あ?」
何を訊かれたのか一瞬分からず、お気に入りのクロワッサンを食べようと口を開いたまま、小敏は父に向かって小首を傾げた。
「お前ほどの美男子で、性格もイイ子なら、デートの相手には不自由はせんだろう?」
「え?…いやだなあ、父さんってば何を言って…」
小敏は急いで、父の機嫌を悪くしないよう明るく無邪気な笑顔で応えた。
「日曜に、デートの相手の1人もいないのか?」
(優木 さん…)
一瞬、優しく誠実な恋人を思い出した小敏だったが、すぐに素直なイイ子の振りをして父親に取り入った。
「今日は父さんがデートの相手になってくれるんだと思ってたんだけど?」
これまでに多くの紳士方を惑わせてきた表情で、小敏は父を上目遣いで甘えるように見た。
「悪いが、今日と明日は忙しいんだよ」
羽厳もまた、成熟した男の生々しい色気を含んだ流し目でチラリと息子を見ると、次の瞬間は茶目っ気たっぷりの笑顔を浮かべた。そのキュートな笑顔は小敏とよく似ている。
「じゃあ、親友の煜瑾 とランチにでも行こうかな~」
昨夜も出たその名で、小敏は父親を煽るつもりはなかったが、少し反応が見たいと思ったのも確かだった。
「予定が無いなら、心配は無用だ。浦東の金茂 タワーのホテルで、妙齢の年頃の男女が集まるランチパーティーがある。お前も参加しなさい」
「え?それって…」
小敏は、まさか父が自分にお見合いパーティーへの参加をお膳立てしているとは思いもしなかった。
「私に着いている陶 くんが一緒に行ってくれる」
そう言うと、父の若い方の従卒が近付いて小敏に礼をした。
「……」
小敏は何も言わずに会釈をして、食事を続けた。
結局、父は陶くんを見張りに付け、小敏が大人しく「妙齢の」女の子とおしゃべりするよう監視するのだ。
「陶くん、小敏が羽目を外さぬよう、見守ってやってくれたまえ」
「了解いたしました、将軍」
深く頭を下げた陶くんに、小敏は彼もまた父に何かを期待しているのではないかと思った。
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