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第8話
「応援幕が決まらない?」
今頃になって何を言い出すのか、と悠は思った。
今回の悠たちのチームカラーは青で、幕にはチーム名を記載することがルールになっている。
応援幕が決まらないということは、チーム名もまだ決まっていないのだ。
そこで、去年人気だった悠の「緑龍」の話を聞きつけた後輩が、どうにかならないかと泣きついてきた。
ゼッケンとハチマキは青地に白の数字をつけているところらしい。それを変えずに、いい案はないかという無茶振りだ。
「ゼッケン、見せて」
PRの代表らしい二年生の男子は、慌ててその辺で作業をしていた女子から一つ、ゼッケンを借りる。
丸文字の数字は、テーマが固まっていないため一つの絵としても、不安定なものだった。
「絵がうまい子はいるの?」
「それが、去年先輩と組んでた奴がいるんですけど、舞台チームの大道具に引っこ抜かれてて……」
画力がある生徒は、やはりどこでも引っ張りだこらしい。
「そうも言ってられないだろ? 下書きだけでもしてもらわないと、間に合わない」
そう言って、思い浮かんだイメージとチーム名を告げると、後輩は俄然やる気になったみたいだ。慌ててその生徒を呼びに行く。
しばらくしてPR代表が戻ってくると、連れて来られた後輩は、嬉しそうに声を上げた。
「春名先輩もいたんですね。俺もPRにすればよかった」
「いや、今年は俺も展示なんだ。ごめん、忙しいのに」
「いえいえ、俺の仕事はほとんど終わってたので。で、どんな感じにしますか?」
大柄だが細いこの後輩は伊藤といい、迫力ある絵を描いてくれる。応援という力強さを要求される場面では心強い。
悠は一言二言、伊藤に告げると、彼は一つうなずき、ルーズリーフにイメージを描いていく。
応援幕の大きさは決まっていて、教室のベランダ一つ分だ。
そこに海と少年とサーフボードを描き、赤文字で荒々しくチーム名を載せようと考えている。
伊藤が描いた少年は波に挑む楽しさと、挑発をのせた笑みを浮かべていた。
その下では、白い飛沫を上げて、波がうねっている。
まだラフの段階だが、波と少年の気性の激しさがひしひしと伝わってきた。
「Big Wave! ライバルを飲み込め! ですか。このサーファーも気持ちよさそうですね」
伊藤のラフを眺めていたPR代表は、さすが去年の優勝コンビ、とその案をすぐに通した。
応援幕は青色の布が支給されているため、海の青は改めて塗る手間を省けて考えたものだ。
ゼッケンの丸文字数字は、水泡だと捉えてくれれば、と思った。
そしてビッグウェーブチームとなった悠たちは、展示チームの応援も借りて、幕の作成に取り掛かった。
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