11 / 34

第11話

あれから一週間、結局悠は家で悶々と過ごしていて、何もできなかった。 清盛の母から何度かご飯の支度を頼まれていたが、行く気になれず、出来あいのものを玄関に置いていくだけだ。 当然宿題も手につかず、提出ギリギリまで放っておいたのだが、それもそろそろできなくなってきた。 なので、いつもより早く学校に登校し、溜めた宿題をやろうと決めた。 朝の教室は落ち着くし、最近は避けていて見ていないが、清盛とまりんが仲良く登校する姿を、見なくて済むと思ったからだ。 少しずつ日の出が遅くなっていくこの時期は、空気も澄んでいてついつい外を眺めてしまう。 緑は黄色や赤に変わり、早いものは落ち葉となって土へ還る。 悠はこの季節が一番好きだった。 しばらく外を眺めて落ち着いてから、自分の席に着く。 宿題と言っても新しく習うことは少なく、大学入試問題の応用を、こなしていくだけだ。 もともと成績が良い悠は、すぐに宿題を終えてしまう。 時計を見ると、清盛と藤本がいつも登校してくる時間だった。集中していたせいで、随分クラスメイトが来ていたのも、今になって気付く。 この一週間、意識的に避けたこともあったが、気分的に穏やかでいられるのは、まりんを見かけることが、少なくなったからだろうか。 (そういえば……) まりんがここのところ、清盛に纏わり付いてないことに気付く。 登校したときだって、前は教室まで付いてきていたのに、それもない。 「よ、春名」 「おはよ、藤本」 藤本は何か知っているのだろうか、清盛ならいつもは何かあったら言ってくるし、それが喧嘩したという程度でも、同じだ。 「なぁ、ちょっと聞いて良いか?」 珍しい悠からの質問に、藤本は面白そうに首をかしげた。 からかいモードのそれに、一瞬聞く人を間違えたかな、と思う。 「井上さん、最近来ないね」 「えっ? あ、あぁ……」 意外な質問だったのか、藤本は戸惑ったようだ。 しかしすぐに納得したのか、またからかいモードに戻る。 やはり何か知っているようだ。悠は話せ、と目で脅すと、降参したように肩をすくめた。 「別れた。二、三日前」 「おっす、悠に幸太っ」 詳しく聞こうと思ったのに、タイミング悪く当の本人が来てしまった。 今の会話を聞かれていないかヒヤッとしたが、大丈夫のようだ。 そして悠の顔を見るなり、拗ねたような顔をする。 「悠、お前最近登校時間早すぎ。あんな時間じゃ、俺合わせられないだろ?」 「別に一緒に登校するって決めてないじゃないか。それに、宿題溜めてたんだよ」 「……幸太~、悠が冷たい」 「はいはい」 子供のように騒ぐ清盛は、やっぱりいつもと変わらない。 とても失恋したとは思えない元気さだ。 「とにかく、もう遠慮しなくていいからさ、登下校、一緒にするよな?」 清盛としても、一応避けられていた自覚はあったようだ。言外に別れたと言っている。 彼女がいなくなったとたんにこの態度で、思うところがないわけではないが、全開の笑顔で見つめられて、顔が熱くなる。 「ついでに、また家に来てメシ作ってくれよ。やっぱ一人で食うのは寂しいしさぁ」 殊更明るく言う清盛に、少しだけ悠は違和感を抱く。 やはり、別れたことは多少なりともダメージを負っているのだろうか。 ついさっきはいつもと変わらないと感じたはずなのに、どことなく不安定さを感じて、不安になる。 「確かに、春名の作るオムライスは、お世辞無しに美味かった」 「だろ? あー、俺、今日オムライス食べたいなぁ」 「今日は絵美さん帰ってくる日だろ」 「あれ? 俺のところには悠に頼んだってメールがきたぞ?」 証拠だ、と言わんばかりに、自分の携帯電話を悠に見せてくる。 確かに、晩御飯は悠ちゃんに頼みました、と書いてあった。 多少の時間差がるのかもしれないし、手違いでもあったのだろうか、あまり気にしないことにする。 「じゃ、今夜はオムライスな」 うきうきと自分の席に着く清盛に、ニヤニヤと笑いを止めない藤本。 やっぱり清盛にはいつも押し切られてばかりだ、とため息をついた。

ともだちにシェアしよう!