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第11話
あれから一週間、結局悠は家で悶々と過ごしていて、何もできなかった。
清盛の母から何度かご飯の支度を頼まれていたが、行く気になれず、出来あいのものを玄関に置いていくだけだ。
当然宿題も手につかず、提出ギリギリまで放っておいたのだが、それもそろそろできなくなってきた。
なので、いつもより早く学校に登校し、溜めた宿題をやろうと決めた。
朝の教室は落ち着くし、最近は避けていて見ていないが、清盛とまりんが仲良く登校する姿を、見なくて済むと思ったからだ。
少しずつ日の出が遅くなっていくこの時期は、空気も澄んでいてついつい外を眺めてしまう。
緑は黄色や赤に変わり、早いものは落ち葉となって土へ還る。
悠はこの季節が一番好きだった。
しばらく外を眺めて落ち着いてから、自分の席に着く。
宿題と言っても新しく習うことは少なく、大学入試問題の応用を、こなしていくだけだ。
もともと成績が良い悠は、すぐに宿題を終えてしまう。
時計を見ると、清盛と藤本がいつも登校してくる時間だった。集中していたせいで、随分クラスメイトが来ていたのも、今になって気付く。
この一週間、意識的に避けたこともあったが、気分的に穏やかでいられるのは、まりんを見かけることが、少なくなったからだろうか。
(そういえば……)
まりんがここのところ、清盛に纏わり付いてないことに気付く。
登校したときだって、前は教室まで付いてきていたのに、それもない。
「よ、春名」
「おはよ、藤本」
藤本は何か知っているのだろうか、清盛ならいつもは何かあったら言ってくるし、それが喧嘩したという程度でも、同じだ。
「なぁ、ちょっと聞いて良いか?」
珍しい悠からの質問に、藤本は面白そうに首をかしげた。
からかいモードのそれに、一瞬聞く人を間違えたかな、と思う。
「井上さん、最近来ないね」
「えっ? あ、あぁ……」
意外な質問だったのか、藤本は戸惑ったようだ。
しかしすぐに納得したのか、またからかいモードに戻る。
やはり何か知っているようだ。悠は話せ、と目で脅すと、降参したように肩をすくめた。
「別れた。二、三日前」
「おっす、悠に幸太っ」
詳しく聞こうと思ったのに、タイミング悪く当の本人が来てしまった。
今の会話を聞かれていないかヒヤッとしたが、大丈夫のようだ。
そして悠の顔を見るなり、拗ねたような顔をする。
「悠、お前最近登校時間早すぎ。あんな時間じゃ、俺合わせられないだろ?」
「別に一緒に登校するって決めてないじゃないか。それに、宿題溜めてたんだよ」
「……幸太~、悠が冷たい」
「はいはい」
子供のように騒ぐ清盛は、やっぱりいつもと変わらない。
とても失恋したとは思えない元気さだ。
「とにかく、もう遠慮しなくていいからさ、登下校、一緒にするよな?」
清盛としても、一応避けられていた自覚はあったようだ。言外に別れたと言っている。
彼女がいなくなったとたんにこの態度で、思うところがないわけではないが、全開の笑顔で見つめられて、顔が熱くなる。
「ついでに、また家に来てメシ作ってくれよ。やっぱ一人で食うのは寂しいしさぁ」
殊更明るく言う清盛に、少しだけ悠は違和感を抱く。
やはり、別れたことは多少なりともダメージを負っているのだろうか。
ついさっきはいつもと変わらないと感じたはずなのに、どことなく不安定さを感じて、不安になる。
「確かに、春名の作るオムライスは、お世辞無しに美味かった」
「だろ? あー、俺、今日オムライス食べたいなぁ」
「今日は絵美さん帰ってくる日だろ」
「あれ? 俺のところには悠に頼んだってメールがきたぞ?」
証拠だ、と言わんばかりに、自分の携帯電話を悠に見せてくる。
確かに、晩御飯は悠ちゃんに頼みました、と書いてあった。
多少の時間差がるのかもしれないし、手違いでもあったのだろうか、あまり気にしないことにする。
「じゃ、今夜はオムライスな」
うきうきと自分の席に着く清盛に、ニヤニヤと笑いを止めない藤本。
やっぱり清盛にはいつも押し切られてばかりだ、とため息をついた。
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