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第13話

「なぁ、何かあったのか?」 次の日から、悠と清盛の冷戦が始まった。 というか、一方的に悠が清盛を無視しているか たちだ。 落ち込んでいると端から見ても分かる清盛は、机に突っ伏して動かない。 不審がった藤本が、こちらも珍しく不機嫌をあらわにしている悠に尋ねる。 「別に」 「別にって態度じゃないだろ、それ」 清盛なんか、完全に魂抜けてるし、と藤本は呆れ顔だ。 確かに、このままでは藤本が気の毒だし、今まで相談に乗ってくれた恩もあるので、かいつまんで話す。 「やっぱり、口より先に、手が出たのか」 そんなことだろうと思った、と藤本はため息をついた。 自分の心の整理もついていないのに、手を出そうとした清盛に、アホだ、と呟く。 しかし、煽ったのは他でもない、藤本だ。 「たまには痛い目も見ないとね」 普段振り回されてるから仕返しだ、と悪びれない顔で言う。 悠はちらりと清盛を見やった。 普段元気の塊のような彼が、枯れた花みたいにしおしおしている。 その様子に気付いたクラスメイトが、心配して声を掛けている。 人目を惹く人気者だけあって、ちやほやされようはさすがだった。 心の中で、彼のために一生懸命料理する彼女に、「何か違う」と訳分からないこと言って別れて、身近の都合のいい幼馴染を恋人にしようとするとんでもない奴なんだぞ、と愚痴る。 大体、悠の意思を無視して話を進める彼が悪い。 悠だって、そんなめちゃくちゃな告白でも嬉しかったのだ。 でも、今まで通りずっと幼馴染でいると思っていたので、戸惑いのほうが何倍も大きかった。 付き合うことは不可能ではないが、そうなったとしてもし関係が破綻してしまったら、そちらの方が悠にとってダメージは大きいと思ったからだ。 それ以外に、男同士で付き合うとなると、色んな弊害も出てくるだろう。 それに、今の清盛は欲求不満で、それだけで突っ走っている感じがするのは否めない。 本当に都合のいいだけの関係にはなりたくなかったので、キスの件を謝ってくるまで考えないことにした。 その日はそのまま清盛を半ば無視し続け、よほどこたえたのか、彼は下校時間になると一人で帰っていった。 明日は少し態度を和らげるか、とその日は藤本と帰った。 しかし次の日、清盛は学校に来なかった。 きつく当たりすぎたせいかと思ったが、それだ けで休む奴ではないし、そうならとっくに昨日休んでいる。 「気になるなら連絡取ればいいのに」 藤本が呆れ顔で言う。 悠は休み時間になる度、教室のドアの向こうを見ていた。 しかし、清盛が来る気配はない。 「お前も、もうちょっと素直になればいいのになぁ」 「余計なお世話だ」 今度はからかい顔で言う藤本に、携帯を見て視線を逸らす。 すると、二件の新着メールが届いていた。 「……キヨだ」 慌ててメールフォルダを開くと、いつもの清盛らしくない、シンプルな文章でこう書かれている。 『母さんが倒れて入院した。二、三日学校休む』 「絵美さんが……」 続いてもう一つのメールを見ると、清盛の母、絵美からだ。 『大したことじゃないんだけど、清盛にはショックだったみたい。落ち着くまで休ませるから、心配しないでね』 清盛にとっては唯一の家族だ、相当心配したに違いない。 しかし、本人が大したことないと言っているので、しばらく親子水入らずで過ごすのも良いだろう。 こんなことでもなければ、久しぶりに会えないなんて、清盛も気の毒だ。 それから絵美が退院するまでの三日間、清盛は学校を休み、母と過ごしたらしい。 今日は二人で家に戻っているだろうな、と思いをはせていると、絵美からメールが来た。 『清盛が進学やめるって駄々こねだしたの。私が倒れた事で就職を考えたみたい。でも、そこまで深刻なことじゃないのよ? せっかく今まで頑張って勉強してきたのにって説得しても聞かなくて。悠ちゃんお願い、清盛を説得して』 突拍子もない清盛の言動には慣れたつもりだったが、事態の重さにさすがに焦る。 取り敢えず、一日の授業が終わるまで待ってと返信し、最後のホームルームが終わったらダッシュで帰った。

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