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第15話

清盛と初詣に行った後は、木全家で軽く食事をし、泊まるというのが通例だった。 いつもは春名家のおせちを持っていくのだが、今年は急だったのでコンビニの軽食だ。 不思議なことに、清盛はコンビニの弁当は嫌いだけど、お菓子やドリンク、ファストフードは食べる。 「やっぱり初詣の後のフライドポテトは美味いっ。年に一度だから美味しいんだよなぁ」 「ほら、食べたら片付ける」 いつものように寛ぎ始める清盛と、片付ける悠。 結局、今までと関係は変わらないらしい。 しかし、清盛は浮かれているのか、ニコニコしながら手伝ってくれた。 「明日は大雪だな」 「何だよそれ。……それよりさ」 「何?」 「俺、お前からちゃんとした言葉聞いてない」 「…………」 片づけを終えて再びソファーに座ると、清盛はぴたりとくっついてきた。 「昔っから、俺は触っても大丈夫なんだよなぁ。へへ、俺だけの特権」 そう言いながら、頬にキスをしてくる。 耳もとでまた言葉を催促して、腰をグッと抱かれた。 「俺は、悠が好き。お前は?」 囁かれた言葉が嬉しくて恥ずかしくて、顔が熱くなる。 ついでに目頭まで熱くなってしまって、うつむ いて隠した。 そして、初詣に行く前、胸の中から溢れていた言葉を口にする。 「寂しかった、会いたかった……俺も好きだよ。触れても平気なの、キヨだけなん……っ」 催促しておいて、清盛は悠を抱きしめて言葉を止めてしまった。 思ったよりも高い清盛の体温は、悠を落ち着かなくさせる。 「き、キヨ?」 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる清盛は無言で、どうしたら良いのか分からない。 「あー……くそ、こればっかりは強引にするわけにはいかねぇしなぁ……」 悠には分からない独り言を呟くと、ぽんぽん、と背中を叩かれる。 あやすようなそれは、何だか懐かしく感じた。 「取り敢えず、お風呂入ってきなよ」 悠も清盛の背中を軽く叩くと、彼の力が一気に抜けたのが分かった。 「お前なぁ……無自覚にも程があるぞ。仕方ないことだけどさぁ……」 何が無自覚で何が仕方ないのか、先程から清盛は何が言いたいのかさっぱり分からない。 この際だから、思い切って聞いてみることにする。 「なぁ、前にも藤本に、無自覚な上に無防備だって言われたんだけど、何で?」 すると清盛はがばっと音がするほど勢いよく顔を上げ、悠の肩を掴む。 「い、痛い……」 「それホントに幸太に言われたのかっ?」 若干怒ったような表情をしているが、またそれが何故かは分からない。 「う、うん……。だから気をつけろって……なぁ、どういう意味だ?」 「そうだよ、そのために俺がずっと遠ざけてきたんだからなっ。くそ、幸太の奴、余計なこと言いやがって」 「キヨ」 悠は一人で解決しようとしている清盛に、軽くチョップをした。 清盛は観念したかのように悠の肩から手を離し、ため息をついた。 「悠は考えたことないか? 接触恐怖症になったきっかけ、女が嫌いになったきっかけ」 「……きっかけ?」 そういえば、今まで何故人に触れられるのが怖いのか、何故女性を見るのも嫌いになったのか、考えたこともなかった。 気が付いたらそうなっていて、原因までは探ろうとしなかった。 しかし清盛は首を振る。 「いや、それは今いいや。でも、自分でも気付かないうちに、誰よりも意識していて、でも自分には経験がないから、対処の仕方が分かってないってことだったら?」 性やセックスに対して、と清盛は付け加えた。 確かに、今の話なら当てはまる、と納得する。 知らないからこそ怖く、強く意識してしまうのだ。 「そういうのを敏感に感じ取る奴がいるんだよ。加虐心を持つ一部の奴がな」 意識しているくせに無垢な悠の身体は、そのギャップと不安定さで人を寄せ付ける。 しかし本人は、それに気付くことができない。 だから、気をつけろということだった。 「中学のとき、下手したらいじめられてただろ」 清盛に言われて、そんなこともあったと思い出した。 でも清盛がいたおかげで、手を出していた生徒たちは、だんだん遠ざかっていったのだ。 アレがもしエスカレートしていたらと思うと、今更になってゾッとした。 清盛は、ずっと守っていてくれていたのだ。 「……キヨがいて良かった」 「だろ?」 満足気に笑う清盛は、そう言って悠の額にキスをした。

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